PURPLE DAYS
70
「──涼、いい加減元気出せって。落ち込んでも何にもならないだろ。」

「……だって悔しいんだもん!あたし、あんなに頑張ったのに……」



 大学の弁論大会での結果が奮わずに、あの日もここに来ていた。浜辺の片隅に腰を下ろしていたあたし達。朱希はほとんど何も言わずに、ずっとあたしの側に居てくれたんだよね。

 今思えば、本当に心配をかけたと思う。それなのに、嫌な顔一つしないで“ちょっと遠くまで行こう”って誘い出してくれた朱希。あの頃から、彼の性格は全然変わっていない。きっとあたしは、朱希に何度も救われてきた。



「お前、頑張ったじゃん。結果は残念だったけど、俺は涼が努力してたの、ちゃんと知ってるから。
つーか、入賞だけが全てじゃないじゃん。大事なのは、“大会で何を得たか”だろ?」



 骨ばった綺麗な手が、そっと頭を撫でてくれる。その言葉がとても嬉しいのに、すぐには明るく振る舞えない自分が居て。凄く、情けない。

 でも、朱希はそんなあたしに呆れたり、見捨てたりはしなかった。一度は突き放すようなことを言ったとしても、後で必ず救いの手を差し伸べてくれる。自分勝手なのに人から慕われるのは、きっとこの面倒見の良さがあるからだろう。



「……お前、覚えてる?高2のインターハイの時、俺のせいでチームが負けたこと、あったよな。あの試合の後、お前、俺に言ったじゃん。
『そうやっていつまでも落ち込んでんの?自分のせいでチームが負けたと思うんだったら、勝利に導けるくらい強くなりなよ!』って。あの時、俺がどんなに励まされたか分かるか?あれがなかったら俺、“来年は絶対チーム引っ張ってやる”って思わなかった。」



 まっすぐな瞳が向けられている。視線を逸らすことを許さない漆黒の瞳は、いつも前を向いていて。何かから立ち直るために時間が必要なあたしのことを、ずっと見守ってくれる。

 求めているものばかりって訳じゃないけど、朱希はいつだって、あたしに何かを与えてくれる。大切なことに、気付かせてくれる。だからあたしも、いつかはそれを返さなきゃ。あんたが好きな歌の歌詞じゃないけど、「愛されるばかりが能じゃない」んだよ、ね。


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