PURPLE DAYS
68
side涼
予告もなしに“出かけよう”なんて言われたから、びっくりしてた。でも、あたしを見つめる朱希の表情が、凄く優しかったから。多分あたしのためなんだな、と思った。
自分のことを優先するのが朱希だし、大抵の人はそうすると思う。でも、朱希はいつもあたしのことを考えてくれてるんだよね。分かりにくいけど、ちゃんと伝わってるよ。今日だって、気まぐれなのかもしれないけど、外に連れ出してくれたしね。
――これも“愛”なのかな、なんて。
「……あ、あたしこの曲好き!えっと、『Warp』だっけ?」
「そうそう、よく覚えてんじゃん。」
「当たり前でしょ?高校の時から、散々朱希に刷り込まれてるんだから!」
「おい、俺が洗脳したみたいな言い方すんな。」
運転しながら、器用に前を向いたままあたしの頭を小突いてくる朱希。“洗脳”、か……そこまではいかないけど、朱希がどのアルバムや曲がお気に入りなのかくらいは、分かるよ。だから、これを選んだんだからね。
曲が一巡したら、また別のCDを選んでかける。今度はあたしが好きな、あゆこと浜崎あゆみのシングルベストアルバムだ。朱希に気に入っている曲があるかどうか聞いたら、「んー……『Voyage』かな。前にお前が歌ってた時、良いなって思ったから」だそうだ。え、ちょっと照れるんだけど……
「涼、喉渇いてねぇ?自販機かコンビニあったら買ってくるけど。」
「あ、あたしが買ってくるよ。朱希は運転で疲れてるでしょ?」
「良いって。今日一日は、俺がお前の時間もらってるんだから。」
“だから座ってろ”と続けて、路肩の自販機の側に車を止めた朱希が微笑する。やっぱり、あたしのこと気遣ってくれてるんだ。なら、折角の厚意に甘えなきゃ失礼だよね……
もう一度“自分が行く”と言おうとしたのをやめて、「……じゃあ、ミルクティーお願いね」と返す。朱希は「了解」と短く答えて、自販機へと向かった。
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