PURPLE DAYS
58
「……大変だったんですね、色々。」



 俺が言うと、「ええ……」と微笑する橋本先生。三年前の彼女はきっと、こんなすさんだ人ではなかったんだろう。そう思うと、ほんの少しだけ同情する。涼を泣かせたことは、絶対許せないけど。



「……私、もうすぐ退職しようかと思うんです。」

「え、何でまた……」

「一から出直したいんです。いつまでもこのままじゃいけないし……今度は、幼児向けの英会話スクールで働きたいと考えてます。もしかしたら、そこで良い出会いが見つかるかもしれないし。」



 彼女はそう言って、口角を上げる。この人なら、きっと変われる。まぁ、俺の直感だけど。あんまり外れたことはないから、信じてみても良い筈だ。



「その方が、橋本さんらしいかもね。幼児向けってことは、子供好きなんだろ?」

「ええ。だから、いつか子供を産む日をとても楽しみにしてるの。
……色々と迷惑をかけてごめんなさいね。涼さんにも謝っておいて頂けるかしら?直接謝る勇気がない、なんて言ったら、何様かと思われるかもしれないけど……」



 ――涼に申し訳ないと思ってくれたのか。ならまぁ、許してやるかな。



「大丈夫ですよ。涼はちゃんと理解あるし、案外ケロッとした顔で『あ、そうなの?大変だったんだね』って言うんじゃないかな。」

「あら、サバサバした人なのね。根に持たない人って、私好きだわ。」



 フッと笑った橋本先生は、「早川先生、ありがとう」と口にした。別に俺、何もしてないと思うんだけど……まぁ、いっか。とりあえず、「どういたしまして」と返しておいた。


[*←前][次→#]
[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!