PURPLE DAYS
54
「ねぇ……あんな色気ない子なんかやめて、私にしない?」
「はぁ?」
――気付いたら、頬に手を宛がわれていて、奴の体がすぐ近くにあった。何言ってんだ、こいつ。呆れて物も言えなかったけど、ただ“何て大胆な奴なんだ”という思いが頭をよぎった。
「……それ、誘ってんの?」
「さぁ、どうかしら?」
「俺、質問を質問で返されんのって嫌いなんだよね。白黒はっきりしてくれない?」
「あら、数学教師らしい答えね。」
丁寧語を使うことなんて、頭になかった。めんどくせー……俺は早く涼を迎えに行きたいんだよ、時間取らせんな。
内心毒を吐いている俺に気付かないのか、奴は笑顔を崩さない。くそっ、蛇女しつこいな。
「ふーん……動揺しないのね。こんなに良い女が誘ってるのに。」
「……それ、自分で言ったらアウトじゃね?」
どうやらこの女は、今まで男を翻弄してきたという自信があるらしい。へぇー、そりゃ凄いな。俺が嫌いなタイプど真ん中だーっつの。
――悪いけど、俺にとって良い女って言ったら“あいつ”しか居ないんだよね。
「……全然欲情しないんだよね、それ。涼はもっと上手く誘うけど?」
ニヤリ、自分に出来る精一杯のムカつく顔で笑う。すると奴は、露骨に顔をしかめた。おいおい、プライド傷付けられたってまる分かりじゃん、それ。
「……あなたねぇ!ちょっと若くてモテるからって調子に乗ってるんじゃない!?」
怒りを露にした女が、勇敢にも俺の胸ぐらを掴んでくる。いい加減、こいつには頭にきた。だから反対に、奴の襟首を思いきり締め上げてやる。
「……調子に乗ってんのはどっちだよ。」
怒りが染み込んだ声で口にして睨み付けてやると、途端に怯えた表情になる蛇女。やっと自分の浅はかさを把握したのか、こいつは。つーか、何がしたいのかさっぱり分かんねぇ。
「……じょ、女性にそんなことして良いと思ってるの!?」
震える声で言われても迫力は皆無だし、第一許してやる訳がない。これが涼だったら、守ってやりたいと思うところだろうけど。
こいつに聞きたいことは多々あるけど、とりあえず俺の言いたいことを先に言うか。そう思い、奴の瞳を真正面から捉えてやる。
「……お前、マジでふざけんな。涼のこと泣かせるわ俺にまとわりつくわ、一体何がしたいわけ?」
――凍り付いた体で、奴は俺に視線を投げかけている。その目が逸らされたから、もしかしたら、少しは悪かったと思っているのかもしれない。本人の口から何か聞くまでは、分からないけど。
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