PURPLE DAYS
43
「あの、あたし夕飯の支度があるんで……」



 早めに立ち去ろうとしたんだけど、橋本さんはそれを許さなかった。敵の前から尻尾を巻いて逃げかえる犬を見るような目をあたしをに向け、勝ち誇ったようにニヤリと笑う。



「なぁんかがっかり〜!早川先生の奥さんだからどんな美人かと思ってたけど、拍子抜けだわぁ。」

「……それは失礼しました。」



 ――この人、一体何がしたいんだろう。あたしから自身を奪って、朱希を手に入れたいの?そろそろ我慢の限界が近付いてるんだけどな。



「見た所、体型も普通だし、特別綺麗とか可愛いって訳でもないわねぇ。早川先生、女性を見る目あるのかしら?
あぁ、きっと女に騙されるのね。かっこいいって大変ねぇ……どうでも良い人にまで寄ってこられるなんて。」



 好き勝手に分析を始めた橋本さん。確かにあなたは、あたしから見てもナイスバディだし、容姿も良いと思う。

 でも、何か違うんじゃないの?人をけなして優越感に浸りたいのか、それとも朱希をはじめとする世の男性達は、みんな自分の虜だと言いたいのか。いずれにせよ、彼女の性格は決して良いとは言い難い。



「まぁ、私は別に人様の家庭に口出しはしないんだけどね?ただ、おかしいなぁ〜って思ったから言わせてもらっただけよ。」



 ――いやいや、明らかに口出ししてるじゃない。これは遠回しに“別れろ”って言いたに違いないわね。

 この失礼な物言い、正直いい加減にして欲しい。しかも、他人に言われてすんなり別れられる程、朱希を思う気持ちは軽くないんだから。“朱希と結婚する”と決めた意思を、甘く見ないで欲しい。


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