PURPLE DAYS
32
 あの時はまさか、こんな関係になるなんて全然思っていなかった。だってあたし達、“天敵同士”だったもんね。隣に居ることが自然だって思える日が来るなんて、朱希も考えなかっただろうな。



「……涼?つーか、何で翔梦と岩崎も居んの?」



 切れ長の涼しげな瞳が大きく見開かれている。予想外の訪問だったんだろう。生徒達も、“誰?この人達”みたいな視線をこちらに向けている。



「えっと、何となく来ちゃった!ねぇ、凄く懐かしくない?四人揃うと、高校時代に戻ったみたいで。」



 朱希は目を細めて、小さく息をついた。もしかして、怒ってるのかな。そう思ったんだけど、どうやら勘違いだったみたいだ。



「……なーにが“来ちゃった”だよ。来るなら連絡しろよな。マジでびっくりしたんだけど……」



 生徒達をその場に残して、こちらにやってくる朱希。迷わずあたしの元へ歩いてきた彼は、頭をポンポンと叩いてきた。

 その途端、女子生徒から小さく声が上がる。多分、朱希のファンなんだろうな……こいつはまた、バレンタインにチョコを大量にもらってくるようになるんだろうか。



「いやいや、たまには朱希を驚かせないとつまんないし。」

「そうそう!私達ばっかり驚かされてたしね。」



 翔梦と慶華が答えると、朱希は「何だそれ」と言ってクスリと笑う。その背後の生徒達は、「あの人達、先生の高校の時の同級生みたいだね」と話をしていた。それに気付いていないのか、朱希は慶華や翔梦を見て顔をほころばせている。



「……何か、めちゃくちゃ懐かしいな。お前、よくこの窓から外見ながら、岩崎とたそがれてたよな。」

「うん。朱希は昼休みにバスケやってたら時間オーバーしたとかで、先生に怒られてたよね。
ていうか、何だかんだ言ってちゃんと先生してるみたいだからホッとしたよ。」

「当たり前じゃん。俺、教え方上手いからな。」



 得意げに言って、あたしの頭を撫でる朱希。確かに上手いんだよねぇ……その分スパルタ度も高いんだけど。高校時代に泣かされたことが、記憶に新しい。

 朱希はふと、後ろに居る生徒達に目をやった。そちらを向くと、あたしの肩にスルリと腕が回される。ドキリとしたのも束の間、「おい」と言った朱希の低い声が頭上で響いて、心臓が悲鳴を上げた。

 何なの、こんな大勢の前で。そう反論することも出来ずにいたら、朱希は続けてこう言った。



「……お前ら、俺の奥さん見たかったんだよな?超ラッキーじゃん。ツイてんな。」



 ――漆黒の瞳と視線が交わる。朱希はあたしに意地悪をしてくる時みたいに、ニヤリと笑った。


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あきゅろす。
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