PURPLE DAYS
27
「……早川先生?」



 ふと、誰かの声がした。振り向くと松本が居て、不思議そうに俺を見つめている。二つ結びにしてある肩の所までの黒髪が、さらりと風に揺れた。



「あぁ、松本か。どうかした?」

「それはこっちの台詞!何かあったんですか?」

「うーん……まぁ、色々あるんだよ。」



 曖昧に笑っておくことにしたのに、大人しくは引き下がらない松本。それどころか、何故か不敵な笑みを浮かべた。



「……橋本先生、でしょ?」

「え、何で分かったの。」

「あ、やっぱりそうなんだ!」



 言われて初めて気付く。しまった、ハメられた。六つは年下のガキに。小さく舌打ちしたら、「あ、今度奥さんに会ったら言い付けてやろー」と言われた。うるせぇな、お前が涼に会うことなんてほぼ100%ねぇよ。



「……何で分かったの、マジで。」

「だって、橋本先生って年下好きで有名ですよ!先生も私もここに来たばっかりだけど、生徒の間では噂とか情報って意外と早く広まるんですよねー。」



 そうだったのか。道理で初日からやたらと絡まれる訳だ……いやいや、違うだろ。俺、“相手居ます”ってちゃんと示してるんだけど。



「は?何それ。俺、奥さん居るんだけど。まさか、これが見えない訳がねぇだろ。」



 掲げた左手に光る、薬指のリング。それを見た松本は、「あー……」と言って視線を逸らした。おい、何だよそれは。



「……多分、『私にはそんなの関係ないわ』って思ってるんじゃないですかねぇ。橋本先生は蛇のようにしつこいらしいから、早川先生も気を付けて下さいね!被害に遭った彼女持ちの先輩からの情報なんで、信じて用心した方が良いですよ。」

「おい、人のもんに手ぇ出すとか問題だろ。つーか、生徒にちょっかい出して良いのかよあの人……」



 信じ難いけど、松本の話を聞く限りではそういうことらしい。何か色々荒んじゃってる人なのかもな、橋本先生。今日から俺は、彼女を心の中で“蛇女”と呼ぶことにしよう。


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あきゅろす。
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