PURPLE DAYS
26
「……あ、コーヒーおいしいです。」
「本当?良かったぁ!」
そう言って笑う彼女を見て、改めて思う。あー、こいつの行動、やっぱ計算されてるわ。わざわざ胸が見える姿勢保ってんじゃねーっつーの。伊達に数学教師やってる訳じゃないけど、角度には敏感なんだよ。
周りを見ると、一部の男性教師は橋本先生を凝視している。そんなに良いのか、こいつ。気は利くかもしれないけど、計算高いのはどうかと思うぞ。そう言葉にしそうになったが、代わりに小さく溜め息をついた。
「……俺、ちょっと外の空気吸って来ますね。ここ、タバコの煙が充満してるから。」
「あら。早川先生ってタバコ吸わないの?」
「一応、現在進行形でスポーツ愛好家なんで。じゃあ。」
「そういえば、バスケの顧問だったわよねー!今度見学に行っちゃおうかしら?」
どうぞご勝手に。そう思いながら席を立った。こいつ、少しは他の先生達を見習って生徒の心のケアや授業の進度について考えたらどうなんだろう。男誘惑しに職場来てんのかよ。
職員室を出ようとする俺にようやく気付いて「あ、行ってらっしゃーい」とにこやかに手を振る橋本先生に、“お前は俺の奥さんか?”と言いたくなった。生憎俺には、目に入れても痛くないくらい溺愛してる奴が居るんだよ。普通はここで子供の話題が出るんだろうけど、俺には当てはまらないな。とりあえず、振り返って笑顔を向けておく。上手く笑えたかどうかは、謎だけど。
「はぁ……あいつ、男に媚売ってるよなぁ。バレバレだっつーの。」
おかしい……さっきまで充実感に満ち溢れてた筈なのに。ホームシックじゃないけど、早く家に帰りたいとさえ思った。
――涼に会いたい。空を仰ぐと飛行機雲がうっすら残っていて、水色のキャンバスに軌跡を描いていた。
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