PURPLE DAYS
25
side朱希



「おい、席着けよ。授業始めるぞ。」



 生徒達の喋り声で騒がしかった教室は、俺が入室すると静かになっていく。席を立っていた奴らも、小走りで席に着いた。最近では教師をナメきっている生徒も居るらしいが、俺が受け持っている奴らは比較的素直だと思う。まぁ、中には問題児に手を焼いている先生も居るようだけど。



「……よし。じゃあ、昨日の続きからな。」



 いつものように、といってもほんの二週間程前から担当させてもらえるようになったのだが、授業を始める。寝る間も惜しんで立てた授業計画を生徒達が楽しそうにこなしていくのを見ると、とても嬉しい。ここが分かりづらいとか、ここをもう少し説明して欲しいとか言われると、構成が甘かったんだと分かって勉強になる。

 先生は確かに物を教える立場にあるけど、生徒から教わることも多い職業なんだろうな。授業終了後、そんなことを考えながら廊下を歩く。すれ違いざまに声をかけてくる生徒達に言葉を返しながら、次の授業があるクラスへと足を進めた。



「──早川先生、お疲れ様でした。」



 机に置かれたカップに顔を上げる。今日は午前中に二つ授業が入っていたから、その気遣いは嬉しい。だが、問題は声をかけてきた人物だ。



「あー……橋本先生。どーも。」



 コーヒーを入れてくれたのは、橋本玲子(はしもと れいこ)。男子生徒に人気の英語教師だ。確か26歳で、未婚らしい。長い黒髪はウェーブしており、流行りのものらしい香水の匂いが鼻につく。思わず苦情を出しそうになって、喉の奥へ必死に押し殺した。



「お疲れみたいだけど、大丈夫かしら?」

「あー、大丈夫です。もう慣れてきたんで。」

「あら、本当?早いわね!」



 清楚な印象を与える白のカーディガンを同色系の薄い服の上に羽織り、ミントグリーンのスカートを穿いた彼女は、そう言ってニコリと笑う。きっと世の男共は、この時点で彼女に惚れるのだろう。まぁ、俺は全然興味ないけどね。涼が居るし。



「あー……そうですかね?」



 そう言ってカップを手に取ると、俺はさりげなく彼女から目を逸らした。手短に挙げるなら目障りだから。だって、興味ない女の胸の谷間見せられても、なぁ。しかも、多分“意図的”に。ここで喜ばない奴はおかしいと言われるかもしれないけど、そういうのは高校生のガキ共にやってやれば、心から喜んでくれると思う。


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あきゅろす。
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