PURPLE DAYS
14
「ほら、何か気付くことないか」

「えー?うーん……あっ!」



 ――どうやら気付いてくれたらしい。坂本は黒板に答えを書き始めた。クラスメイト達も、ホッと胸を撫で下ろす。



「……先生!!これでオッケーっしょ!?」

「おー、正解正解。4乗の式は2乗に変形すると分かり易いからな。じゃあ次、5乗解いてみろ。」

「えー!?先生ドSだろ絶対!!家で奥さんいじめて楽しんでるだろ!!」

「おー、そうだよ。よく分かったな。ほら、早く解け。」



 反抗めいた言葉をサラリとかわしてやると、教室内が叫び声に包まれる。男子の興奮した雄叫びと、女子のよく分からない悲鳴的なものだ。他の授業の迷惑になるから静かにしろと注意したら、全員素直に大人しくなった。



「先生、そんなんじゃ奥さんに嫌われますよ?」

「何言ってんのよ亜里沙!ドSなのが良いんじゃない!!」

「えー、じゃあ早紀ってドMなんじゃないの?」



 一部女子の間で“SかMか戦争”が勃発。俺の授業でそんな討論するんじゃねぇよ……溜め息をつきながら、「どっちでも良いから、誰か問題解きに来い。この際坂本じゃなくても良い」と告げた。数学が好きらしい生徒が、「あ、じゃあ僕やります」と言って席を立ち、スラスラと回答してくれる。大きな丸を付けてやると、そいつは嬉しそうに席へ帰っていった。



「あのなぁ、自分がSかMかは休み時間に話せよな。
そういえば高校の時、涼にこの式と全く同じこと教えたかも。何かめちゃくちゃ懐かしいなぁ……」



 思わず、笑顔になった。俺につられたのか、生徒達も微笑んでいる。あれは確か、中間テストの時だったな。苦戦していた涼の姿を思い出して再びこぼれそうになった笑みを、そっと押し留めた。

 それから授業は順調に進み、無事終わりを迎えた。帰り際に背中越しに受けた「早川先生!奥さんには優しくしなきゃダメですよ〜!」という言葉に軽く片手を上げ、職員室までの道のりをゆっくりと歩いた。


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