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それは潜水と似ている



目を開ければ真っ白な天井が広がっていた。点滴を打たれているのは紛れもない自分だ。心電図は定期的に音をたてている。あぁ、狂ったのか。と少し横を見れば今にも泣きそうな六道骸がいた


「な…にしてんの」
黙り込む骸に駿河はまた天井に視線を戻した。少しの沈黙の後、骸から声を出した

「あなた、いきなり倒れて…その…」
「発狂したんだろ?」
「…………………えぇ」
「てかもう俺あんたの好きな駿河じゃねぇよ?」
「駿河は駿河です」
「違うっつてんだろ」
少し強めに言えば骸は黙った。駿河は自分の手を強く握りしめた。震える手を悟られたくないのだろう。骸はそれに気付き声をかけようとすれば駿河の声にかき消された

「もう帰れよ!」
「…………駿河」
「帰れっつってんだろ!!!」
枕を投げる駿河、枕は見事に骸の腹に直撃した。いや避けようとはしなかったのだ。それにまた駿河は腹を立て骸を睨んだ。駿河の瞳に映った骸は眉尻を下げ悲しそうだった。駿河は一瞬、言葉を飲み込んで黙りこんだ

「(………なんでお前がそんな顔すんだよ、ツラいのはこっちだ)」


「………駿河、」
「何?」
「僕が……嫌い、ですか?」
「………嫌いだよ」
「、そうですか」
「(そうですかって何だよ)」
「駿河には…もう迷惑かけませんから」
バッと上を向けばそっと額にキスをされ、抱き締められた。耳元にかかる吐息、「今まですいません」と言われ涙腺が潤んだ。

なにをすいませんなんだ、と言おうするも喉が詰まる。ただ最後に悲しそうに笑う骸に身動きがとれなくなった



「(ツラいのはお前じゃねぇ、俺だろ?)」

去る骸に手を伸ばそうとしても点滴が繋がった腕は身動きがとれないほど重い。広い骸の背中をジッと見つめる事しか出来なかった



「(なんでお前が悲しそうな顔すんだよ、お前はただ間違ってるだけだろ?俺と恋人を、結局は……恋人に言われたと思うからツラいんだ。俺の言葉なんて通じないだろ?)」
潤んだ涙腺はポロポロと珠になって頬を滑る。悲しいのか嬉しいのか腹が立つのか果たして虚しいのかもかも解らない。感情は無に近い。どうしようもない感情が自分を支配して涙は止まる事はない。もう前の生活には戻れない。もう昔の感情には戻れない



「(俺は…どうしたらいい?)」
廃人になったかのように真っ白い天井を眺めた。溢れる涙で視界は澱めく。まるで自分の中を晒しているようだ




「やぁ、気分はどう?」
「あっ………」
「あれから3週間は経つけど、調子は良いようには見えないね」
「…………………」
椅子に座る雲雀に駿河は視線を向けた。生気が薄い。雲雀はそれに苦笑いをした

「君……、あの時の六道と同じ顔をしているよ、」
「………あの時?」
「駿河を殺された時の六道の顔、アイツも病院で君みたいに死んだ目をしてたよ」

「死んだ目、か」
点滴が刺さった右腕の動脈辺りは微かに痣が残っている。発狂した自分はあれから自立神経の乱れとやらで精神科の住人になってしまった


「…………アイツなにしてんの?」
「気になるの?」
「(そうだよ…なんで俺、)」
「教えて欲しい?」
「沢田綱吉が来て俺に謝ったんだ、本当にごめんなさいって、やっぱり君を巻き込まなきゃ良かったって……遅いのにね」

「何が遅いの?」
「もう謝ったって俺は狂ったし……それに、」
駿河は言葉を詰まらせゆらゆらと瞳は往復をした。



「君は大事な事をわかってない」
「な、んだよそれ」
「六道も沢田綱吉も悪いけど……………結局それを受け入れたのは君だろう?」

プツンと何かが切れた。
「俺は…俺は、俺は!!!!!悪くないっ!!アイツらが俺と間違ったんだ!俺は仕方なく…仕方、なく」
頭を両手で抱え取り乱す駿河に雲雀は目を細めた。その瞳は酷く冷たく駿河を映し、駿河はビクッと肩を揺らした




「君って自分だけだね、被害者ぶるな、」
「っ!俺は被害者だ…!」
「選択したのは自分じゃない、普通の生活を止めて沢田綱吉の提案に乗った。君は被害者じゃない。悲劇のヒロインぶるのは止めたら?」


「俺は…俺は、被害者じゃ…ないの、か?」
瞳に溜まる涙は布団を濡らした。雲雀は沈黙し、駿河が落ち着くのを待った


「よく聞きなよ」
「……な、に?」



「六道は、」




























「─────死んだ、」







それは潜水と似ている
(一瞬にして、目の前を闇に包まれた)






あきゅろす。
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