EP..Rainy BLUE
04
 


さて、話を戻すが、大の男がまー‥‥‥楽しそうにして。

しかもそれが悉と惟だから、女子は余計に目が離せないときてる。



「すっげー‥‥完全に注目の的だ」

「まあまあ、いつもの事だろ?」



呆れてる俺に、燎世は平然としている。

残念ながら、これが現実で切ない事情なのだ。

頬杖を付き、しばらく二人を観察した後、俺はしてなかった数学の課題を燎世から写させてもらう事にした。




悉も燎世も、頭がいい。

惟はやれば出来るけどあえてしない派。

そう、“あえて”しないのだ。



ただ‥‥‥俺だけが、お馬鹿さん。

虚しいよ、かなり。








「ヒ〜〜〜ロ〜〜〜」



どこからともなく震えた、そう、まるで扇風機にあーってしたみたいな声で呼ばれた。

その声の主がわからぬまま、辺りを見回していると、



「ヒロ〜おはよ‥‥‥いッッ!!!! 悉クン、今のは痛いよ」



ヘッドロックされながらヘラヘラ笑い掛けてくる惟がいた。



「ああ、惟おはよ。楽しそうだな」

「楽しいよぉ〜♪ 悉クンが毎日こうして遊んでぐれッ‥‥るからねぇ〜」



「遊ぶ」という言葉に対し、キツイ締め付けをくらったらしい。



「しつぅ。お前も惟が死なない程度になぁ」



一応注意だけすると、悉は「いっそ殺したい」と苦笑い、それに惟がふざけて「愛ゆえの独占欲?」なんて言うから、悉の腕の力が強まったのは言うまでもないだろう。






「燎世さんきゅ! これで2限の数学は当てられても大丈夫だな! て事で、俺1限は寝てくる♪ だからテキトーに言っといてくれたまえ」

「またあそこか‥‥?」



そう訊いてきた燎世に頷いた俺は、間違いなく満面の笑みだった筈だ。

弾む足取りで教室を出て、階段を下る。

俺は大声を出して笑いそうになるのを抑えながら、目的地の扉を開ける。



 ***



 side:悉



惟にヘッドロックをかけていると、知らないうちにヒロの姿がなくなっていた。

少し離れた場所にいた燎世に目で問う。

燎世は首を横に振り、この場にはいない事を示した。

となると、ヒロの居場所はあそこしかないだろう。



「アイツ‥‥‥またあのババアんとこに行きやがったな」



歯が削れてしまうのではと思うくらい、歯をくいしばった。








ヒロはガキの頃からずっとあの女が好きだった

でも、自分で気にしているほどモテないわけじゃない。

自分があの女に夢中になり過ぎていて、他の女子からのアピールに気付いていないだけ。

中学の時も、噂でヒロを好きだという女子の話は何度か耳にした。

告白しようにも、全く自分を意識されていないと思えば、女子だってしにくいものだ。

駄目だと答えのわかる告白を自らするような子は、あまりいなかった。

それでいて「俺はモテない、どうしてお前はモテるんだ!?」なんていう、自業自得もいいところで、鬱陶しいことをベラベラと言ってくる。

正直、俺はウンザリしていたのかもしれない。

だから、たった一言でアイツを傷つけたことがある。



『私、万紘君がずっと好きだったの』

『あ〜‥‥でも、好きな人いるんだ』

『どうしても、駄目なの?』

『うん。ごめん。その人が一番だから』



玉砕覚悟で告白してきた一人の女子に向かって、またあの女のことを言った。

その女子がいなくなった後、俺に向かってヒロは笑った。



『俺、やっぱりイオちゃんが好きだな』

『馬鹿だよ、お前』

『え? 何だよ、悉。馬鹿とか酷いこと言うなよ!』

『何度だって言ってやるよ。お前は馬鹿だ。あの女にだけ目が眩んで、周りなんて全然見えてねー』

『だって、イオちゃんだけが好きなんだから、仕方ないじゃんか』

『そんなの理由になるか。叶うか叶わないかわからない、面倒な感情だけをいつまで引きずってんだよ!?』

『‥‥‥‥ッ』




不用意な言葉で、ヒロは黙った。

そのヒロの表情を見た時に自分がどれだけ最低のことを言ったか理解した。



『あ‥‥‥悪ィ。今のは流石に言い過ぎた』

『‥‥‥叶わないってことくらい、とっくにわかってる!! それでも俺はイオちゃんだけが好きなんだ!!!! こんな気持ち、悉にはわかんないんだ!』



謝ろうとしてもそれは遅くて、ヒロは傷ついたままその場を去った。

もちろん、その日はすぐに後を追って謝まることで場を治めたが、余計にヒロの想いが不動なのだと知らされて、これ以上は何も言わないでおこうと誓った。



俺があそこで腹が立ったのは、その女子に対しての優しさとかじゃない。

多分、ヒロの眼中の狭さについてなんだろう。

幸せになれるか不確かなことでどうして悩む必要があるのだという、そんな俺自身の焦りが何よりもヒロを傷つけた要因だ。








「悉クン?」



ギリッ‥‥と出た歯の擦れる音に、腕の中にいた惟が振り返る。

思いの外顔が近くなったので、締めていた腕を緩ませる。



「ヒロはイオ先生のトコ行っちゃったの?」

「それしかねーだろ。‥‥ったく、あんなババアのどこがいいんだか」

「え〜。そんな事言うのは悉クンだけだよ。ヒロを筆頭にみんなイオ先生の虜だよ。もちろん、俺も」



嫌らしく、惟は微笑んだ。

人当たりのいい惟は、実際、かなり腹黒いと思う。

どちらかと言えば性格が悪い部類に入る人間だろう。

だからといって、俺達に害を与えるというわけでもないので、性格が良かろうが悪かろうが関係はない。



「お前が言うと冗談に聞こえねーんだよ」

「だって冗談じゃないもーん」

「とんだゲテモノ趣味だな。そんなんだから彼女出来ねーんだよ」

「何だよー。そんなの悉クンだって一緒だろ〜? 燎世以外はみんな寂しい男子高校生なんだから」



趣味否定に関しては触れなかったが、彼女がいないというのはムッときたらしい。

自分もだと、言われてしまえば返す言葉はないが、俺は色恋沙汰に生憎と興味がない。

誰が好きだ何だのは、もうやめて欲しい。

好かれる身の事を考えると、俺に恋愛なんて向いてない‥‥。

人間、向き不向きがあるのだ。



「そうだな。燎世以外はみんな寂しい野郎だ」

「俺がどうかしたか?」



緩い表情で燎世は近付いてきた。



「別に。ただ彼女とお幸せで羨ましいって話してただけさ」

「あー‥‥‥」



俺がそう言って「な?」と惟の肩に手を置くと、バツの悪そうに燎世は頭を掻いた。



「アイツとは昨日別れたよ」

「「はっ?!!!」」



流石の俺も惟も、目を見張る事しか出来なかった。



「なんかさぁ‥‥お互い離れちゃうと結構ギスギスしてきて、特に向こうが変な詮索とかすげーしてきてさ。で、なんか無理だって思っちまって‥‥。だから昨日、俺から振った」



先日までの幸せっぷりはどこへやら、淡々と話す。



「ほらな、やっぱ女なんていらねんだよ。そんなのウゼーだけだ」

「悉クンに何がわかるのさぁー。今まで彼女いた事とかなかったんだろ?」



先程の惟を鼻で笑うように言えば、すねて燎世の後ろに隠れた。



「いなくたってわかるさ。そんなのがどれだけ鬱陶しい存在かは。‥‥‥嫌ってくらいに」



ああ、嫌ってくらいに理解出来る。

燎世、お前も大変だったな?

でも、俺よりは“確実に”お前はまだ幸せなんだよ。




ホントに、ヒロの大馬鹿野郎は何やってんだろうな‥‥。

馬鹿ヒロの所為で、余計に今日はむしゃくしゃしてきた。



一人、苛立ちを堪える俺に、燎世と惟は顔を見合せていた。



 ***


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