第一回作品
フレンチたなか様
プリーズギブミーラブ!
「ママーパパー、あれ買ってよぉ」
慣れたようにねだる子どもの声がふと聞こえたある日の午後。
店先のぬいぐるみを指差す幼い子どもと、口先では咎めながらも財布の紐を緩める両親の姿。
別に何て事はない。休日の商業区だ、実に当たり前の光景。
そんな当たり前の光景に、足を止めてしまう少女が隣に一人いた。少女、と表現してしまうには少し成長し過ぎているかもしれない。
彼女はもう、十六なのだ。
「――アニス、どうしました」
「……、何でもないでーす♪ さ、早く帰りましょー」
今日はカレーです、なんてきらきらと笑いながら私の手を引くアニスの家計事情は、あまり芳しくない。結果お金が恋人だなんて言い出すような子が育ってしまったわけだが。
天真爛漫なように振る舞いながら実はしっかりとしている彼女は、あの子どもの様に両親にねだることなんてしなかった、いや、できなかったのだろう。
「……アニス。何か、入り用のものはありますか?」
思ったらそんな台詞が口をついて出た。
少し遠回しに切り出してみたのは、プレゼントと言ってしまっては少々気恥ずかしい気がしたから。
「ふえ? もう全部買いましたよ?」
未だ健在のトクナガから挟んであった買い物メモを取り出し、紙袋の中身を確認し始めるアニス。
買い忘れ、無いですよねえ?
三十センチ下から問いかけられて、選びながら言葉を足した。
「いえ……個人的な、というか」
「個人的なって……欲しいものってことですか?」
「まあ、そう……アニス、親指と人差し指で丸を作るのはやめなさい」
欲しいもの、で眼光が鋭くなったアニスをたしなめると、当の本人は冗談ですよぉと半ば信じられない笑みを浮かべてから今度こそ真剣に考え始めた。
「えー……やっぱりお金……」
無意識なのかどうか、どちらにせよぼそりとこぼれた本音に絶句する。
予想していなかったわけではないが、まさかここまでとは。今更子どもですねえなんて皮肉るつもりはないが、まだ大人でもないだろうに。
何だか急に彼女を甘やかしたくなった。別段年下趣味というわけではないが、彼女に関しては特例だろう。
アニスの脇に手を添えて、上方向に力を入れればその身体は思いの外軽々と浮いた。
「たっ、大佐っ……?」
「おや、思ったより軽いんですねえ」
たかいたかーい。
おどけたように言ってやれば彼女の顔が忽ち紅く染まる。
甘やかす、という行為なのか際どいところだが休日の公園ではよく見られる光景だ。ただ街のど真ん中である為に、視線を集めるのが嫌でも容易いことなだけで。
この光景を見て、自分たちを恋仲だと思う人はどれくらいだろう。どうでもいいことが気になる、今日は少しおかしいのかもしれない。
「はっ恥ずかしいです大佐ぁ〜! 何ですかいきなり!」
「アニスを甘やかしたくなりまして」
「あまっ……大佐何か変ですー!」
思ったそばから早速言い当てられて、つり上がる口角を止められない。
一度反動をつけて高く放り投げてからぽすっと抱き留める。
きゃあきゃあと喚きながらも首に腕を回すような、随所で見せる嫌に子どもらしい素直さが割と好きなのかもしれない。
「私には、甘えていいんですよ」
私には遠慮しなくていい。言いたいことがあれば、何でも言って。
この年齢差では父親の言葉のようだと自覚した途端にアニスからも指摘を受ける。
「……大佐、パパ、ですか」
「そこは線引きしておきたいところですね」
笑ってから、そっとアニスを地面に降ろす。きゅ、と掴んだ袖口はそのまま。
「大佐からの愛」
「……はあ、?」
「個人的な入り用。さっきまで言おうと思ってました」
でももう、言う前に、先にくれちゃったから。
これは、ちょっと言われたかった、かもしれない。やはり衝動的に行動するのはいけない。
しかしそんなに伝わってなかっただろうか、愛。いつも惜しみなく注いでいたつもりだったのだけれど、それでも足りないと仰るなら。
「――そんなもの、幾らでも差し上げますよ」
タダ、ですしね。
(大佐、やっぱりお金も欲しいです)
(歳ですかねえ、よく聞こえません)
今更弁解は致しません ただ、申し訳ない気持ちでいっぱいに御座います(;∀;)
こんな駄文ではありますが、ジェイアニwebアンソロという素敵な企画に参加できて本当によかったです*
リー様、ありがとうございました!
そしてぎりっぎりの提出でごめんなさいorz
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