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短篇集
くるくる、くらくら、サンタクロース(ロックマンX DiVE/リコ夢)


「ぱんぱかぱ――ん! どうですかプレーヤさん、こちらが私の用意したクリスマスケーキ! です!」

 正確にはクリスマスケーキを模したプログラムデータ、だが。
 とはいえ、そこは広大なディープログに散らばるデータを自在に解析してみせるリコの腕前。ただのプログラムとは思えないほど精巧にできている。鼻腔をくすぐる甘い香りはきっと気のせいなどではない。

「どうですか? どうですかぁ? これ、作るのにすっっごくがんばったんですよ私!」

 とくと見よとばかりにリコはぐいぐいとケーキをプッシュしてくる。得意満面、きらきらと輝く両眼は分かりやすすぎるほどに賛辞を期待していた。
 タローはコントローラーを繰る手を一度止めて。

「よくできてる。上手そうだ」

 眼を合わせて言えば、リコは満面の笑みを殊更に輝かせた。
 今にも手元のケーキで胴上げでも始めてしまいそうなほどの浮かれよう。サイドテールの髪の毛がぴこぴこと揺れる様はしっぽを振るラッシュ、もとい小型犬を思わせた。
 ケーキを大切に安置しつつ、リコがタローの横に座る。

「ふっふっふー、これでクリスマスの準備はバッチリです。ヴィアさんやアイコさんに準備不足を笑わせたりしませんよ!」
「ハッ! 随分な浮かれようじゃないかリコ! そんなにクリスマスが楽しみだったのか? ――みたいには言われるんじゃねえかな」
「わ、プレーヤさんってばヴィアさんのものまねですか!? すごいです! お上手でした! 本当にヴィアさんが来たのかと思っちゃいましたよー」
「いやぁ、そんなにでもねえだろ」

 そんなにですっ、とまたリコが笑う。
 笑って、怒って、沈んで、また明るく笑う。ころころと表情を変える彼女を、いつでもそばで笑ってくれる彼女をタローは心から愛しく想う。
 跳ねた髪の毛を軽く直してやれば、リコはくすぐったそうにまた笑った。

「プレーヤさんは今日もロックマンXをプレイしていらっしゃるんですね。さすがはプレーヤさんです!」
「日課っつうか。まあなあ。っても、ディープログに来てからはやらなきゃいけねえことだし?」
「はい! 多くのプレーヤさんたちの記録と思い出、明日のディープログとクリスマスの命運はプレーヤさんにかかっているのです!」

 クリスマスもかー、とタローも気の抜けた笑みを浮かべる。
 画面の向こうでは見慣れたハンタープログラムたちが出現したバグへの対処を続けている。タローは状況を把握し、どう動くべきか、どう対処すべきか、コントローラーを通じて逐一の指示を出す。
 その横でリコはわずかばかりの不満もなしに画面を見守っていた。

「――はい! ミッションコンプリートです! さすがはプレーヤさんですね!」
「……ん、うん」
「あ、そうです! プレーヤさん、お疲れ様のケーキはいかがですか? 実は納得いかないなりに完成させたものもいくつかありまして。あっ、といっても美味しくないワケじゃないんですよ? ただちょっとう〜んっていう感じで……。それをですね? ヴィアさんたちには内緒で、私とプレーヤさんの二人だけでですね?」
「リコ」

 不意に名前を呼ばれて、リコはこてんと首を傾げる。
 そちらへは向かないまま、タローは抑揚なく言葉を作る。

「タローだ、俺は」

 プレーヤではない、と言外に言う。
 リコはタローの意図するところを考えるようにすこし間を置いて、みるみる内に頬を赤らめ始めた。青い髪とのコントラストがこの上なく鮮やかだった。
 搾り出すように出てきた返答は、だって。

「ずっとプレーヤさんって呼んできましたから、その、お名前で呼ぼうとすると、なんだか照れ臭いんですよぉ……」

 言葉は語尾に向かってどんどんと掠れていって、最後はほとんど聞き取れなくなっていった。
 嬉々と幸せを運ぶ、青髪のサンタクロース。タローは愛しさを込めて、もう一度その髪を優しく撫でた。
 すれば、リコは一層に顔の赤みを深めて。

「も、もー! メリークリスマス! メリークリスマスです!」

 ごまかしきれない恥じらいをごまかすように祝福の定型を大きく叫ぶ。
 それから数日。望んだプレゼントはクリスマス当日に――。




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あきゅろす。
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