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短篇集
コレどうしよ(SSSS.GRIDMAN/立花夢)

 何の気なしに空を眺める。
 晩秋の空は透けるようで、夕日の色がよく映える。
 近頃は日の暮れるのがめっきり早くなったと太郎は一人、息を吐いた。すれば、白く煙った息が朱の空に淡い影を作る。
 ツツジ台高校と銘打たれた校門。その塀に背を預けて。

「お待たせー」

 夕焼けの朱色がまた少し濃くなった頃。パタパタと足音を立てながら校門に近づく影があった。

「おう、立花。遅かったな」

 宝多立花。一年E組、山田太郎のクラスメイト。
 歩き出した二人の間に距離はない。それがそのまま、彼らの関係性を表しているといっていいだろう。
 太郎の言葉に、立花が面映げに言葉を濁した。

「ん、ちょっと、その」
「匂った?」
「……言わないでよね、そういうの」

 不満げに眼を細める立花に、太郎がケラケラと笑みを向ける。
 部室棟のシャワーで清められた立花の指先は温かく。外気で冷えた太郎にはその温もりがなんともいえず心地良かった。

「うん? それなによ?」

 ガサと鳴った音に太郎が疑問を投じる。
 視線の先には繋いだ手とは逆、立花の左手にはビニールの一袋が提げられていた。
 太郎はそれに見覚えがなく。

「そんなの持ってたっけ?」

 重ねて問う太郎に、立花がまた眼を細めた。
 視線は咎めるように。容赦も遠慮もなく注がれる。

「はい、これ。太郎の」
「俺の?」

 押し渡された袋を逆の手で受け取り、そのまま傾けて口を開く。
 まず感じたのは沸き立つような独特の香り。次いで眼に飛び込んだ色彩。白い袋の内で別々の単色が際立って見える。

「ああ、これ。持ってきたのか」
「持ってきた、って。どこに捨てるのよ?」
「そりゃ、ゴミ箱に」

 とんでもない、とばかりに立花が表情を歪めた。
 その圧に押されるように太郎が体勢をすこし仰け反らせる。手に提げたビニールがタプンと弾んだ。

「捨てられるワケないじゃん……! ゴミ箱って教室でしょ。見つかったらどうすんのよ?」
「そりゃ、確かに。あー、じゃあ焼却炉とか」
「……用務員のおじさん、とかに。見つかるかも」

 考えすぎ、とは太郎には言えなかった。
 では、どうしたものかと首を傾げる。よくよく考えてみれば普段は家で使うことがほとんどだ。学生身分ではホテルもほとんど利用しない。

「コンビニのゴミ箱に捨ててくか?」
「うん、私もそう考えたけど、さ」
「今度はなんだよ?」
「ゴムって、もえるゴミ?」
「……燃えるんじゃ、ねえかな」

 返す声には自信というものが微塵も感じられない。立花も曖昧に表情を歪めるばかりだ。

「それに、ほら。駅前のコンビニ、この間ゴミ箱撤去しちゃったし」
「ああ、なくなったんだっけか。メンドクセエことするよな。家庭ゴミがどーたらっての?」
「そう、それそれ」

 なんとなしに会話が途切れた。
 二人揃って、何かを考え込むように軽く空を見上げる。夕焼けには次第に黒が差し始めていて。歩く二人の影が長く伸びる。
 太郎が軽く腕を持ち上げれば、ビニール袋がまた弾んだ。
 タプッという音がしたことと、立花の頬がほんのりと紅を帯びたことは無関係であったはずだ。

「家、持って帰るか」
「うん、じゃあ、お願い」
「俺んち?」
「はあ? 私んちに持って帰れるワケないじゃん! お母さんに見つかったら何言われるか分かったもんじゃないし!」

 珍しく語調を荒げる立花に、太郎も思わず頷く。

「まあ、良くて家族会議だよな。……じゃあ俺んちか。つっても三回分は多くね?」
「……自分で出したものじゃん」
「出させたのはお前だろ――って、痛った! スネ蹴んなスネ!」

 無言の蹴りを浴びせる立花の顔が、耳が、夕焼けに晒され紅く染まる。いよいよ夜が近いようだ。
 途中、遊び終えて家路を駆ける小学生たちとすれ違う。
 雑多なゴミで埋められたゴミ箱の置かれた公園を、太郎と立花は見向きもせずに通り過ぎていった。





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あきゅろす。
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