私の愛にこたえて… ,6 今朝も気分が悪く、成雲達を見送らずに昼まで寝ていた為、成雲達は普段通りに登校したのだとばかり思っていた。 よく考えれば今日は休日のはずの第四土曜日。彼が休日である事が何よりの証拠だ。 それなのに登校した事に何の疑問を持たずにいたとは…と、最近なんだか頭の回転の悪い自分に落胆。 そう言えば、空さんが上機嫌で遠足がどうとか言っていたような気もする。 「ああ…、声が聞こえますね…」 山頂付近の駐車場。 ここから少し長めの階段を上がると、山頂の展望台広場に出る。 もう山の中腹まで来た以上、取り敢えず山頂まで行こうと駐車場まで来たのだが…。 車を降りると、やはり山頂の方からザワザワと大勢の人の声が聞こえた。 「どうしましょうか?」 展望台には劣るが、駐車場からでも十分な景色を堪能できる。 わざわざ団体の中へ行っても、きっと落ち着いて景色を見る事も出来ないだろう。展望台にさえ上がれるか不安だ。 しかも成雲達がいるとなると、余計に行きたくなくなる…。 「行きますっ!」 「えっ…」 すっかり諦めていた私とは裏腹に、彼は張り切って歩き出した。 「上へ行っても、騒がしくてきっと落ち着けませんよ?」 「でも行かないとアレがないし!」 「アレ…?」 どれ? 展望台の事だろうか? 「知ってますか?連理木ってやつ!」 「………ぁ…、まあ…」 知ってるも何も、ここへ連れて来たのは私だ。ここには何度だって来た。何せ、あの男とも訪れた事があるのだから。 「そこで永遠の愛を誓い合いましょう!」 ………え…、永遠の愛… 指輪といい、連理木といい… 彼は『永遠の愛』が好きなようだ。 「高校生のくせに、ずいぶんマセた事を言いますね」 「入宮さんと1コしか違いませんよ!」 クスクスと笑いながら彼をからかうと、彼は頬を膨らまして反論した。 毎度の事だが、何だか子供っぽい人だ。 「もー、良いから早く行きましょ!」 「はいはい」 彼は手を繋ぐのも好きかもしれない。 と言うのも、彼が私の手を引いて階段を上がる現状もあるし、今日の病院を出た時の事や、高校で会う時にも手を繋いで話をしていたから。 実は彼と手を繋ぐのは、私もなかなかに好きだったりする。 身長は彼の方が少し高いという程度だが、手は私のそれよりもずっとゴツくて男らしい。 あの男程ではないにしろ、しっかりした手に捕まっていると守られているようで安心する。 …と、ふと気付いた。 今日はあの男の事をよく思い出している。 龍一郎先生と揉めたり、あの男の車に乗ったり、あの男との思い出の場所に来れば当たり前なのだろうが…。 こんなにも思い出したのは久しぶりだ。 本来ならばかなり落ち込んで、とても笑ってられるような状態ではないだろうに。 彼といるせいか、思い出してもただの比較対象にしかならず、さほど嫌な気分はしない。 それだけ、彼の存在が私の中で大きく、支えになるものになっているのだろう。 ただ… それだけ、彼から離れると壊れやすくなっているという事でもある。 ………恐い…… 彼との関係は賭けで始めた遊び。 本気ではないのだ。 彼に寄り掛かってはいけない。 そう言い聞かせながら、長い階段を彼の手に引かれ上った。 [*前へ][次へ#] [戻る] |