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私の愛にこたえて…
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今朝も気分が悪く、成雲達を見送らずに昼まで寝ていた為、成雲達は普段通りに登校したのだとばかり思っていた。
 
よく考えれば今日は休日のはずの第四土曜日。彼が休日である事が何よりの証拠だ。 
それなのに登校した事に何の疑問を持たずにいたとは…と、最近なんだか頭の回転の悪い自分に落胆。
 
そう言えば、空さんが上機嫌で遠足がどうとか言っていたような気もする。
 
 
 
 
 
「ああ…、声が聞こえますね…」
 
 
山頂付近の駐車場。
ここから少し長めの階段を上がると、山頂の展望台広場に出る。
 
もう山の中腹まで来た以上、取り敢えず山頂まで行こうと駐車場まで来たのだが…。
 
 
車を降りると、やはり山頂の方からザワザワと大勢の人の声が聞こえた。
 
 
 
「どうしましょうか?」
 
 
展望台には劣るが、駐車場からでも十分な景色を堪能できる。
 
わざわざ団体の中へ行っても、きっと落ち着いて景色を見る事も出来ないだろう。展望台にさえ上がれるか不安だ。
 
しかも成雲達がいるとなると、余計に行きたくなくなる…。
 
 
 
「行きますっ!」
 
「えっ…」
 
 
すっかり諦めていた私とは裏腹に、彼は張り切って歩き出した。
 
 
 
「上へ行っても、騒がしくてきっと落ち着けませんよ?」
 
「でも行かないとアレがないし!」
 
「アレ…?」
 
 
どれ?
 
展望台の事だろうか?
 
 
 
「知ってますか?連理木ってやつ!」
 
「………ぁ…、まあ…」
 
 
知ってるも何も、ここへ連れて来たのは私だ。ここには何度だって来た。何せ、あの男とも訪れた事があるのだから。
 
 
 
「そこで永遠の愛を誓い合いましょう!」
 
 
………え…、永遠の愛…
 
 
指輪といい、連理木といい…
彼は『永遠の愛』が好きなようだ。
 
 
 
「高校生のくせに、ずいぶんマセた事を言いますね」
 
「入宮さんと1コしか違いませんよ!」
 
 
クスクスと笑いながら彼をからかうと、彼は頬を膨らまして反論した。
 
毎度の事だが、何だか子供っぽい人だ。
 
 
 
「もー、良いから早く行きましょ!」
 
「はいはい」
 
 
彼は手を繋ぐのも好きかもしれない。
 
と言うのも、彼が私の手を引いて階段を上がる現状もあるし、今日の病院を出た時の事や、高校で会う時にも手を繋いで話をしていたから。
 
 
実は彼と手を繋ぐのは、私もなかなかに好きだったりする。
 
身長は彼の方が少し高いという程度だが、手は私のそれよりもずっとゴツくて男らしい。
 
あの男程ではないにしろ、しっかりした手に捕まっていると守られているようで安心する。
 
 
 
…と、ふと気付いた。
 
今日はあの男の事をよく思い出している。
 
 
龍一郎先生と揉めたり、あの男の車に乗ったり、あの男との思い出の場所に来れば当たり前なのだろうが…。
 
こんなにも思い出したのは久しぶりだ。
本来ならばかなり落ち込んで、とても笑ってられるような状態ではないだろうに。
 
彼といるせいか、思い出してもただの比較対象にしかならず、さほど嫌な気分はしない。
 
それだけ、彼の存在が私の中で大きく、支えになるものになっているのだろう。
 
 
ただ…
 
それだけ、彼から離れると壊れやすくなっているという事でもある。
 
 
 
………恐い……
 
 
彼との関係は賭けで始めた遊び。
本気ではないのだ。
 
 
彼に寄り掛かってはいけない。
 
そう言い聞かせながら、長い階段を彼の手に引かれ上った。
 
 
 
 
 

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