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私の愛にこたえて…
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「………っ…てぇな…」
 
 
殴られた際に切ったらしく、先生の口端から血が滲み出ていた。
 
 
 
「俺が誰と付き合おうが、兄さんには関係ないっ!今度邪魔するような事言ったら、殴るだけじゃ済まないからなっ!!」
 
 
先生の頬を打った拳をキツく握りしめ、彼は顔を真っ赤にして言った。
 
 
その真っ赤な顔をこちらに向けると、荒い足取りで迫って来る。
 
 
 
「行きましょう入宮さんっ!!!」
 
「えっ!?」
 
 
ガシッと私の手を掴み、強引に引いて歩き出す。
 
 
 
「おい、虎二郎っ!!」
 
 
先生の呼ぶ声が聞こえたが、彼は振り返る事なく部屋を出た。
 
 
 
扉が閉まる直前、先生を振り返り見た。
 
もう兄である自分にも手の負えそうのない弟を、痛そうな頬に手を当てながら呆然と見送っていた。
 
 
 
 
 
院内の廊下を荒い足取りで突き進む。
 
乱暴に手を引かれ、時々人とぶつかりそうになりながら彼を追った。
 
 
 
「虎二郎さん!虎二郎さんっ!?」
 
 
さっきから何度も呼び掛けているが、全く反応のないまま。結局、病院の正面玄関を出るまで歩き続けた。
 
 
 
 
 
玄関を出てすぐ、やっと立ち止まった彼が険しい顔で振り向いた。
 
 
 
「なんで病院なんか来たんですかっ!?」
 
 
まだまだ怒り心頭といった彼が、周囲の視線など構わず怒鳴った。
 
掴んでいた手に力がこもり、手首の痛みに顔をしかめたが、それでも彼は力を入れ続けた。
 
 
 
「なんで兄さんなんかに会わなくちゃいけなかったんですか!?」
 
 
怒りばかりだった表情に、わずかに哀しみが浮かび上がる。
 
 
 
「なんで別れろなんて言われなくちゃいけないんですかっ!!?」
 
 
本当に別れたくないのだろう。
 
兄を殴ってしまう程悔しかったのだろう。
 
 
 
「なんで…っ!!」
 
 
まだ怒りは収まらないが、それ以上に憤りが強くなったのか。彼は言葉を詰まらせ、歯を食いしばった。
 
 
そして、ぐっと唾を飲み込むと、眉間に深い皺を寄せたまま言った。
 
 
 
「デートに行くんでしょう!!?」
 
 
 
散々怒鳴り散らした揚句の可愛らしい言葉の登場に、私だけでなく、聞き耳を立てていた周囲の人々までが驚き目を見開いた。
 
 
 
唖然として何も言えずにいたが、彼の厳しい視線に気付き慌てて口を開いた。
 
 
 
「で…、デートに…行きたいですか…?」
 
 
咄嗟に出た言葉はなんとも間抜けな質問だった。が、最も気になる疑問でもあった。
 
あの言い争いの後で、しかも兄を殴った後で、それでもデートをしたいとは思わないだろう。
 
 
……そんな考えは甘かったようだ。
 
 
 
「行きたいも何も!行くんですよっ!」
 
 
もはや怒りなどどこかへ行ってしまったようで、今の彼はデートに行く事で頭がいっぱいといった様子だ。
 
 
 
「早く行きますよっ!?」
 
 
先程より力の抜けた手で、まだ掴んでいた私の手を引いた。
 
 
 
…全く、どこまでも一途な人だ。
 
 
 
「はい」
 
 
急かす彼に微笑みかけ、横に並んだ。
 
 
 
兄の反対さえ押し切ったご褒美。
 
今日だけ、恋人になってあげよう。
 
 
 
 
 

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あきゅろす。
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