私の愛にこたえて… 胸中 昼食を済ませ一息ついた後、屋敷の車に乗って彼を迎えに行った。 私服の彼は新鮮で、制服の時よりも幼く見えた。逆に彼は私の私服姿を見て、大人っぽい!色っぽい!と舞い上がっていた。 「それで、今日はどこに行くんですか?」 車が発進すると、彼はさっそく尋ねた。 雰囲気は遠足へ向かう小学生。ワクワクウキウキといった感じで、全く落ち着きがない。 「どうしても貴方に会って頂きたい知り合いがいるので、今はその方の職場に向かっております」 「知り合い…?……ま…まさか、お父さんとかっ!?」 一体どこからそんな発想が出てきたのか。親を知り合いと表現するはずがないとは思わなかったのだろうか。 「うわっ…どうしよ!俺こんな格好で大丈夫かなっ!?もっとちゃんとしたやつ着て来るんだった!!」 とんだ検討違いにも関わらず、彼は本気で焦り取り乱す。 あまりにも真剣に悩んでいるものだから、可笑しくて思わず吹き出してしまった。 「違いますから。まあ、友人みたいなものですので、そんなに気構えされなくても大丈夫ですよ」 「なんだ、友達かぁ…」 安堵の息を吐く彼を見て笑うと、彼は恥ずかしそうにはにかんだ。 一緒にいて嫌な気分になる事はない。 むしろ、いつも無邪気で素直な彼と共にいる時間はとても安らぐ。 何せ、私の事を好いてくれているから。 それなのに私は… その綺麗な心を私自身の力で傷付ける勇気はなくて…。 裏切る私をどうか罵倒して下さい。 憎んで苦しめて下さい。 「い、入宮さん!ここ病院ですよ!?」 「ええ。会わせたい知り合いはこの先にいますので」 「この先って……精神科ですよっ!?」 もう彼も気付いただろう。 今から私が彼に会わせるのは、彼の兄、鳳生龍一郎だ。 私の過去に最も詳しい人物だから。 きっと彼と別れさせてくれる。 [*前へ][次へ#] [戻る] |