私の愛にこたえて… ,5 「もうすぐ夏だな」 おやつの時間になってようやく目覚めた先生が、ずいぶん遅い朝食をとりながら、ふと中庭を眺めて言った。 新聞で真夏日だと報じられていた今日の中庭は、未だに照り付ける日差しで砂利が白く反射し、花たちも気怠そうにくたびれている。 室内は冷房のおかげで涼しくて、とても快適な環境の中、私達は昼下がりの朝食をとる。 なんたる怠惰…。 「ごめんな」 中庭から視線を戻した先生が、今度は私を真っ直ぐに見て謝罪を口にした。 その意図を測り兼ねた私は、わずかに首を傾げてその意志を示す。 「もう、傍についていてやれない」 穴が空きそうなほど私を見詰めて、とても悲しい表情を浮かべる。 そんな先生の言葉に私は、何が言いたいのかを納得して頷いた。 「構いませんよ、今の私には沢山の味方がいます。皆、私をとても愛してくださいますから、心配なんていりません」 「それもそうだな」 「ええ、ですから、先生は先生の幸せを見付けてください。…ね?」 予想以上に私の事を気にかけていて、かなり寂しげな先生に私が出来る事は、後押し。 普段なら絶対やらないような首を傾げてねだるような仕種を見せ、そう言った私を先生が笑う。 「俺は俺の、幸せ……か」 悲しい笑顔を中庭に向け、遠い目に何を映しているのか。 自嘲するような笑みを浮かべた先生は、きっと思い通りにならない人生を儚んでいるのだろう。 そんな目の前にいる大切な人一人さえ助けられないもどかしさに、“あの日”を思い出して胸が苦しくなった。 [*前へ][次へ#] [戻る] |