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私の愛にこたえて…
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それは私と先生が出会ってから約8年の中で、初めて先生に恋人が出来たという知らせ。
 
 
 
「…………ぉ…、おめでとう…ございます」
 
 
 
想像もしなかった先生の変化に、驚きのあまり言葉に詰まる。が、取りあえず祝福をした。
 
 
 
「つーか、婚約したんだけど…」
 
「えっ…」
 
 
 
バツが悪そうに話す先生。呟くように説明された先生の近況は、こうだった。
 
 
 
有名企業が集まるパーティーに出席したところ、得意先の大企業の社長に見初められてその娘を紹介された。
 
初めはお互いに政略結婚のように感じて気が進まなかったが、相手のお嬢さんが徐々に龍一郎先生の人柄の良さに惹かれてしまい、
 
是非、結婚したい。
 
 
 
と、正式に申し込まれたらしい。
 
断る理由のない先生は仕方なくそれを受諾して、ついに婚約してしまった…と。
 
 
 
「まぁ…、もう31ですし、そろそろ身を固めるべきでしょう……ね」
 
 
 
とは言うものの、先生がまだ私に好意を抱いている事は重々承知している。だから、なんとも祝いづらい。
 
先生は歯切れの悪い言い方をした私を一瞥して、フッと吹き出すように笑う。
 
 
 
「俺もそう思う。だから、結婚するよ」
 
 
 
少し寂しそうに、お茶を見つめて。
 
 
 
 
 
――…結婚…
 
 
まるで私にはお伽話のようなその単語を口にした先生は、これから先、ずっとずっと好きでもない女と人生を共にする。
 
それは何だか可哀相な話で、でも私には口を挟む権利なんかない。
 
 
でも本音は、ちょっとだけ私も寂しくて、
 
 
 
「じゃあ、こうして二人で会うこともやめないといけませんね」
 
「ああ…」
 
 
 
ついつい言ってしまったその本心に、先生の顔が明らかに曇った。
 
 
 
「入宮、あのな…」
 
 
 
思い詰めたように俯き、少しの間、口を噤んで沈黙を作る。
 
 
普段はどんなに長い静寂も気にかける必要なんてないほど親しい私達だけど、こんなに気まずい間は初めて。
 
それだけ先生が結婚をするという事は重大な事件であり、動揺してしまう事なんだと思い知る。
 
 
そして意を決したように顔を上げた先生は、はっきりと言った。
 
 
 
「最後にもう一度、お前を抱きたい」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

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あきゅろす。
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