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君と一緒だから。
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30分弱待ってようやく木の前に入り込めるスペースが空き、空を連れて急いで割り込んだ。
 
 
そして間近で見上げたその木は、マイナーと言うわりには立派な大木。
 
直径1メートル程のブナ系の木で、根元から2メートル程の高さで幹が別れ、その数メートル上で結合している。
 
全体の高さは二階建てビル程度あり、生い茂った木の葉が地面にしっかりとした木陰を作り、かなりの迫力がある。
 
 
 
「凄いな…」
 
 
初めて見た連理木の偉大な姿に、ふと素直な感想が出ていた。
 
 
 
「でしょー?この木のお陰で俺は瀬田と恋人になれたんだよ」
 
 
隣で手を繋いでいる空が、ニコニコと愉快に微笑み嬉しそうに話す。
 
 
 
「入宮と来た時のことか?」
 
「そぅ。瀬田と恋人になれますよーに…ってお願いしたの。あ、連理木の神様にお礼しなきゃ!」
 
 
空は説明を終えると木の方へ向き、何やら手を合わせてブツブツとお礼らしき言葉を口にし始めた。
 
奉られてもいない連理木に神様がいるのかは疑問だが、この木のお陰で空がより積極的になり俺が恋人にならざるを得なくなったのなら俺も感謝すべきだろう。
 
 
 
 
 
「あのね、瀬田。お願いがあるんだけど…良い?」
 
「………、内容に寄るな」
 
 
甘えておねだり…と言うよりは、顔色を窺うような感じで空が尋ねた。
 
 
可愛い恋人の為にも、良いぞ。と胸を張って答えてやりたいところだが…。
 
いつも直球勝負な空が遠回しに頼み事をするなんて、怪しい。
 
 
当然の返答を返したまでだが、不満だったらしく頬を膨らませ睨む空。
 
ほんのりピンク色の柔らかい頬が膨らむたび、桃まんのように美味しそうな頬に食いつきたくなる。
 
 
…と、それは置いといて。
 
 
 
「言ってみろ。でないと分からん」
 
 
そう言うと、空は頷いて話し始めた。
 
 
 
「入宮さんから教えてもらったんだけどね。この木にカップルで来たらしなきゃいけない事があるの」
 
「絶対にか?……何だ」
 
「まず、二人の間にある手を繋ぐの」
 
「こう?」
 
 
手を繋ぐくらいは先程までしていた訳だし、何ら問題はない。言われたままに手を繋ぐと、空は頷いた。
 
 
 
「それから、空いてる手は木に当てて…」
 
 
空の説明に添って、繋いでない方の手をそれぞれ木の幹に当てる。
 
木の幹から伸びた二本の腕、それが手を繋いでいる部分で結合する。これは連理木の形に見立てた動きだろうか。
 
 
他とは違う動きを始めた俺達に、訝しげな周囲の視線が集まって居心地が悪い。
 
…が、空のためにも今は我慢だ。
 
 
 
「目を閉じて、頭の中で、ずっと一緒にいれますように…ってお祈りして、」
 
 
……ずっと一緒にいれますように…。
 
 
 
「で、最後にキスするの」
 
「…はあっ!?」
 
 
嬉しそうに言い終えた空のお願いに、思わず声を上げた。
 
 
 
「こんな所で出来るかっ」
 
「やっぱりー…」
 
 
はっきり断る俺に、だいたいの予想はついていたらしい空がガッカリと肩を落とした。
 
分かっていたなら最初から言うな、と言いたい。
 
 
 
「恋人なんだからキスくらいしろよー!」
 
「声がデカい」
 
 
勝が大声で言うものだから、さらに周囲の視線が集まった。
 
なになに、あいつらキスすんの?と俺達を囲い出す外野共。もう嫌だ…、ここから離れたい…。
 
しかし、空がまだしっかりと手を握っていて逃げる事も難しい。
 
 
そうこう悩んでいると、西藤が言った
 
 
 
「見損なったぞ瀬田!恋人にキスの一つもしてやれねーなんて、意気地無しのヘタレだっ!このニセ俺様野郎!!」
 
「西藤…、ちょっとツラ貸せ」
 
 
衝動的に言ってしまったのか、先程の紅のような罵声を俺に浴びせた西藤は、俺が声を低くして言うと慌てて目を逸らして知らんぷりを決め込む。
 
 
 
「西藤の言うこと、俺も正しいと思うけど?空がお願いしてるんだからキスしてあげなよ」
 
 
珍しく真顔の紅が、これまた珍しく西藤を庇った。
 
 
 
「俺は所構わずほいほいとキスするような軽い奴じゃない」
 
「今ここでするキスは軽いもの?」
 
「…」
 
 
確かに、しないのは単に俺が嫌だからだ。
 
だが、ここは普段人気のない場所だからこそ出来る事であって、やはり人口の多い今ここでキスをするのはどうかと思う。
 
 
とは言え、『ずっと一緒にいれますように…』と誓った後のキスは、紅の言う通り決して軽いものではなく、むしろ重要な儀式とも言えるんじゃないだろうか…。
 
 

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