君と一緒だから。 ,6 「ハンカチ、鼻紙、ビニール袋、薬のポーチに財布。あと遠足のしおりに、おやつ……あ、まるっとバナナはあるよね?」 「箱に入れて冷蔵庫にある」 「じゃあ、出来上がりっ」 「携帯の充電は?」 「…あっ…!充電しとかなきゃ」 リュックの中に手書きのリストを見ながら明日の持ち物を詰め込み、慌てて携帯を充電器に繋ぐ空は、すでに遠足気分だ。 いつもならこんな空を見てニヤニヤする俺だが、今はやっぱり入宮の体調が気掛かりで…。 山森の話だと、今日もまともに食事をとっていないらしい。本人はそんなそぶりは全く見せないが、おそらく体に負担は掛かってきているはず。 明日は入宮が自分から起きるまで放っておくようにと山森に指示しておいたが、昼からのデートは大丈夫だろうか。 「瀬田ぁー、寝るよー?」 「ん…、ああ」 明日の準備をし終えた空が、さっさと俺のベッドに上がり込んで呼んだ。 昔からずっとこうだからもう俺も抵抗はないが、恋人になってからも何の躊躇もなくベッドに上がって、肩を並べて寝るのはどうなんだろう。 恋人におけるベッドという場所は… いや、 いやいやいや… それは考えないでおこう。 「おやすみ」 いつもと同じ就寝前の挨拶。 空の丸くて可愛い額にキスをする。 キスをするたび俺は本能とかなりの葛藤をするのだが、した後の空の嬉しそうな顔を見るとしてやらない訳にもいかない。 そして、空からは頬にキスをくれる。 ここでもし振り向いたら口に当たるよな… なんて不純なことを考えながら、いつも結局そんな勇気のないまま頬にされて終わる。 今日もそんな調子で終わりそうだ…って、相変わらずヘタレな自分に落ち込んでいると、 「んっ!!?」 まさかの空から唇にキス! あまりに驚いて声を上げたのが恥ずかしいが、それどころじゃない。 目の前には空の長い金の睫毛。唇にはマシュマロのように柔らかで甘い感触。 俺は今、 とんでもない葛藤に襲われている。 「………き、急に……どうした?」 まさか、誘ってるんじゃ…とも思ったけれど、早とちりで空を泣かせるような馬鹿な真似はしたくない。 正直に尋ねると、空はえへへと恥ずかしそうにはにかんだ。 「したい時にするもんなんでしょ?何となく今したくなったの。……嫌だった?」 …嫌なはずがない。 少し不安げに窺うように首を傾げる空を前に、俺は吹き出しそうな鼻血を抑えることに精一杯の力を使い平静を装う。 むしろ、もっともっと…いっそ舌を絡めて空をぐちゃぐちゃに乱れさせるまでしたい。…なんて、そんな変態むっつり思考は頭の端の最奥に押し込んだ。 「いや…じゃあ、出来たし満足したか?」 「うん、大満足!」 …………押し倒さなくて良かった…。 「おやすみっ」 屈託のない可愛い可愛い笑顔でそんなに喜ばれて、この歪んだ欲望だらけの俺が醜くて仕方がない。 いっそ消し去ってしまいたい。 ああ、この可愛い恋人はいつか俺の醜さに気付くのだろうか。 気付いて欲しいような、気付かれたくないような…。 胸の中から聞こえる穏やかな寝息。 柔らかな抱き心地。温もり。 抱き着いて寝られると、息子が今にも暴れ出しそうだ。 …理性よ頑張れ! と、朝から晩まで葛藤だらけの日々。 そんな俺の努力などこれっぽっちも知る事なく寝入る空。少しは気付かせた方が良いだろうか…。 「…………はぁ…」 今日も疲れた。 とっとと寝よう。 [*前へ][次へ#] [戻る] |