星の契り
◇最期の約束
あれから1時間半…
治療室から出てきた星夜は病室に運ばれ、先生には意識はまだ戻らないが、命に別状はないと言われた。
それを聞いた俺は、すぐに星夜の病室番号を聞き、走った。
早く、はやく。
誰よりも何よりも早く、星夜の元へ。
そして目が覚めたら伝えるんだ。
「大好きだ」って。
少し走って。そろそろ星夜の病室につくはず。
815号室…
【月島 星夜】
見つけた。
極力音を立てないように、静かに入る。
星夜の病室は、個室だった。
星夜は、白い白いベッドの上で、腕にたくさん点滴の管を付けて、目を閉じていた。
ベッドの横に付けられている椅子に腰を下ろし、管が付いていない方、つまり右掌をそっと握った。星夜の腕、とゆうか全体は真っ白で、血の気がまるでなかった。掌は思ったよりもひんやりとしていて、どき。とした。
星夜に掛けられている布団が微かに上下していて、ほっとする。そうだ。先生が大丈夫って言ったんだ。だから、大丈夫だ。
「星夜…」
星夜の髪を撫でると、瞼が震えてゆっくり開かれた。まだ意識がはっきりしないのか、焦点が合わず、ぼーっとしている。
「星夜っ、ごめん…起こしちまったな」
だんだん焦点が合ってきたみたいで、まだ少し半開きの目で俺を見てきた。
「……ひ、ろ…と、」
掠れた、小さな声で呼ばれ、顔を寄せて耳を傾ける。一言一句聞き漏らさないように。
「………お、れ……死、ぬの…?」
「っ…死なないっ。死ぬな、まだ、まだ俺が死なせない。だから、だから死ぬ、だなんて、言うなよ……星夜。頼むから」
星夜の口から【死】と言う言葉を聞いた瞬間、どうにも悔しくなり、星夜にこんな事を言わせてしまった自分の不甲斐なさにどうしようもなくなり、息が詰まった。話してるうちに涙が溢れた。…悲しかった。
「星夜。好きだ」
言った。言えた。ちゃんと言えた。
言った瞬間、星夜の目が見開かれた。そのまま俺を凝視する。
「好きなんだ。どうしようもなく」
尚も続ける俺に星夜は眉間に皺を寄せ、苦しそうな顔をした。
「…な、んで………俺、に…同情、でも、した…んじゃ、ない…の」
顔を背けて嘲笑うように言う。
「星夜」
「そ、ゆうの、酷いよ…」
「星夜、聞いて」
「俺、は…死ぬの」
「星夜!!!」
「に」
急に声を上げた俺に驚いたのか、星夜は止まった。
「同情なんかじゃない。病気とか、だから可哀想とか……死ぬ、とか。そんなこと考えたことなんか無い。学校で一緒にいるうちに、近くにいて落ち着くと思ったし、笑った顔がいいと思った。何より、泣かせたくないと思った。幸せにしてえと思った!!」
「ひ、ろと」
「好きなんだ。星夜」
「お、れは」
星夜は小さくそう言うと、目に涙を溜めながら震える声で呟くように話し始めた。
「…今、は…死なない、としても。もう、長く、ない。…わかるんだ。自分の体が、思うように、動かなくて。ろくに、食べれない。食べれた、と思っても、吐いちゃう、し。前より、発作も、頻繁に起きるよう、になった。絶対、ぜっ…たい…大翔、よりも。先に、死んじゃうんだっ。俺、は。大翔を、置い、て…いかなきゃ、いけない、んだ…俺の、せいでっ、大翔の未来、を…縛りたく、ないんだよ…」
途切れ途切れに、ゆっくりと。途中から溜めきれなくなった涙を溢しながら、小さく話した。
なんだよ。それ。
「星夜」
「っ」
星夜は止まらない涙を拭うこともせず、大翔に顔を向ける。
「未来とか、まだ分からない。俺は、今の、星夜の気持ちが、聞きたい」
星夜は、また下に落ち始めた視線を、はっと大翔に向けて、大翔を見ると、また涙を溢す。
「もっと我が儘言っていいんだ」
大翔が言えば、いよいよ星夜の涙腺は決壊する。
「わが…まま?」
「ああ」
「い…ってもっ…いいの?」
「あぁ。なんでも聞いてやるよ」
大翔が優しく笑いながら星夜の頭を撫でると、ますます大量の涙を溢れさせながら、その手を掴んだ。
「す、き」
「…うん」
「すきっ」
「うん」
「大好きだよぉっ」
「あぁ。俺もだ。…ありがとう」
言ってくれて。好きになってくれて。
さっき星夜が泣きながら小さく話した時、自惚れかもしれないとも思ったが、星夜が、自分のせいで俺の未来を縛りたくないと言った時。きっと星夜も俺が好きだ、と思った。
「星夜。じゃあ、約束しよう」
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