星の契り
◆それぞれに
あの日から星夜と俺は付き合うことになった。時間が許す限り星夜の側にいた。
それでも日に日に弱っていく星夜。
そんな星夜をただ側で見ていることしか出来ない自分が不甲斐なかった。
「ゲホッ」
星夜はここ最近、毎日吐いている。
もう胃が食べ物を受け付けられないんだとか。俺は毎回背中を擦りながら星夜が出してしまった後の始末をしている。俺にはそれくらいしか出来ないから…
星夜はいつも申し訳なさそうに眉をハの字にして、泣きそうな顔をする。
…随分やつれてしまった。
「ごめんね…」
「何が?」
「…いつも、後始末…」
「謝ることじゃねぇよ。俺にはこれくらいしか出来ないから」
「…うん…」
星夜は、元気だった頃に比べて、明らかに“ごめんね”の数が多くなった。
それと、声も弱々しくなってきた。
「なぁ星夜」
「なに…?」
「こういう時は、ありがとうって言うんだよ」
「…うん……ありがとう…」
でも、いつも一瞬一瞬を大事そうに過ごしていた。
付き合ってからは、前よりも笑ってくれるようになった。
そしてこの日の夕方、主治医に4日間だけ自宅に帰っても良いと許可を貰った。
――――――――――
一日目は、二人で俺達が初めて話した公園に行った。
ベンチに座って、空を眺めた。
星夜は眩しそうにしながら、「空って、こんなに遠いんだね…」と呟いていた。
俺は、「そうだな…」としか言えなかった。
二日目は、星夜の希望で少し遠出して海へ行った。
「海だ…」
「あんま人居ないな」
「穴場みたいでいんじゃない?」
この日は星夜も調子が良かったらしく、子供に戻ったみたいにはしゃいでいた。
「大翔っこっち!」
「ん?」
「見て見て」
「お、」
「綺麗だね…」
「絶景だな」
太陽の光を反射してきらきらと輝く海は宝石箱みたいだった。
「あとね…」
そう言って星夜は顔を赤くして、鞄から二人分の弁当箱を取り出した。
「え、作ったのか!?」
「…うん…」
「え…ヤバイ嬉しい。ありがとな」
緩む口元を抑えきれずに受け取って、すげえなーって頭を撫でてやると、さっきより顔を真っ赤にした。
星夜の作った弁当は全部美味しくて、一つ食べる度に美味い美味いって言いながら食べた。
あーんってやつもやったし、やって貰った。
けど、星夜が卵焼きを掴んで俺の口元に近付ける途中、ぽた、と箸から落ちてしまった。
もったいないなぁ…と思いながら星夜を見ると、ぼろぼろ涙を流していた。
「星夜?どうした?どっか具合悪いか?」
ふるふる、と首を振る。
「卵焼きならほら、洗えば食えるし、」
また、首を振る。
それから何も言わず、そっと頭を撫でていると、震えながら顔を上げた。涙と鼻水でぐしゃぐしゃだった。
「…ど、しよ…」
「え…?」
「ど…しよッ」
「どうした?」
顔を覗き込みながらそっと聞く。
「ひ、ろとっ…」
「ん?」
「ひっく、うぇぇえっ」
子供みたいに声を上げて泣き出した星夜を抱き上げ、膝に乗せて、抱きしめた。
「どうしよう…どうしようッ」
肩口に顔を埋めながら
「まだ、死にたくないっ」
振り絞るような
「しにたくないよぉっ」
叫びだった。
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