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属に言う帰宅部の平均的活動
夏休みの帰宅部達の活動(前編)
じめじめとした梅雨も明け・・・・


夏だ。

そして夏休みであると言うのに俺は部室にいる。
何故だ?
うちわを片手にうだる。
真横にいる神有彩は・・・

「・・・・」

熱心に、ヒヤシンスの観察記録を書いていた。
おまけに絵日記である。

「なぁ・・・よくこんな状態で描けるな」

「・・・・・・」

「・・・・・おい」

「・・・・・」

返事がない。
セミがせわしなく鳴いていた。
普通、無視されたらそちらを向いて相手の顔を確認するが・・・・

「・・・・あぢぃ・・・」

それどころじゃ無かった。
やっとのおもいで、部室の壁にかけられている古びた温度計を見る。

「・・・よんじゅー?」

・・・ヤバイ。
現実を知ると、暑さが倍増したように感じる。
もっとも、ここは四階。
けっこう太陽に近い場所だ。

暑くても仕方あるまい。

頭がぼーっとして、どうでもよくなってくる。
神有彩が制服ではなく白いワンピースでここにいるのですらどうでもいい。
・・・・・
このままだとおかしくなる。
もともと、桜田が悪いのだ。

なんで夏なのに学校に来るんだ?

時は一週間前に遡る。



「合宿をします!」

「だまって下さい」
「お兄ちゃんうるさい」
「・・・パクリ?」

桜田が窓に足をかける。
それを何とか引き止め、話を聞いた。

「あー・・・取り乱した。すまん。」

「で、何でですか?急に合宿って・・・」

半袖の制服の腕を捲り、桜田に聞いた。

「俺は・・・・間違っていた・・・」

「はぁ・・・・」

「ここ・・・・秘密結社だった!!」

「あー、そういえばそうっすね・・・・」

入学当初訳わかんない気持ちで、この部活に入った事を思い出した。
もっとも、今になっても訳わからないのは変わらなかったのではあるのだが。

「で、だ。合宿がしたい」

「いや・・・・俺は別にいいですけど・・・・冴子ちゃんはどうなの?」

「え?いぇ・・・あの・・私は、聡君がよかったら・・・いいですよ?」

「そう・・えーっと・・・」

神有彩を見る。
眉間にシワを寄せ、口は「い」の口で、目は半開き・・・・要するに凄く嫌そうだった。

「どうなの?神有彩・・」

ビクッと、動きこちらを見る。
頬が赤くなっていた。

「あ・・・・あの・・・プール・・・」

「え?」

「プール・・・行く?」

「・・・いや、その辺は桜田さんに・・」

神有彩の目線が神有彩に変わる。

「桜田・・・行く?」

「行くともさ!!何たって、学校で合宿だからな!」

「やった・・・わーい」

小さく万歳する。

「が・・学校でやるんすか?」

「おうよ!学校なら、金もかからんし金もかからんしな」

「言ってる事がよく解りませんが、金がかからないから学校でいいだろって事っすね?」

「まぁ、そうだな。じゃ当日に会おう!!」









蝉が鳴いている。
耳障りだ。
そろそろ、集合時刻のはずだ・・・・


だんだんだんだん・・・・

階段を駆け上がる音がする。
死にかけの表情で、扉を見た。

ガチャ・・・

何故か扇風機が顔を出した。
そしてそれは、神有彩と俺の間に降り立ち、羽を回しはじめた。

「ふぅ・・・疲れました。聡君、マヤさん、遅れて申し訳ありませんでした」

この礼儀正しい言葉と、ロリな声でもうろうとする意識が回復する中気づく。
ちらりと、声のする方を見た。

「冴子ちゃん・・・」

「こんにちは、聡君。今日も暑いですね」

「あぁ・・・・てかさ、冴子ちゃん・・・その服・・・」

何か英語がプリントされた白いTシャツを着ている冴子に気がつく。
その視線に気づいたのか、ちょっと恥ずかしそうに笑った。

「あ・・・やっぱり変ですよね、私みたいなのがこんな服着るのは・・」

「いや・・・凄く似合ってるよ」

「ほ・・本当ですか?」

びっくりしたような顔で聞き返してくる。

「あぁ、そんなかわいい冴子ちゃんを見たら、お兄ちゃんもびっくりだ。」

「にゅふふ・・・」

嬉しそうに、服を着た自分を抱きしめた。
そのまましばらく、くるくる回った。

と、言うより私服でもよかったのか。
ならばあの人も・・・

「よぉ、いきてっかー」

うちわを片手に扇ぎながら、アロハシャツとサングラスをかけたちょいワル親父的なノリで、俺の中で今一番ウザイヤツNo.1の男が登場した。

「桜田・・・」

俺が何か言おうとするのより早く神有彩が桜田に話し掛けた。
それに気づき桜田が、テンションアゲアゲで振り向いた。

「なんじゃぁぁぁあ!!神有彩ぃぃい!」

「・・・・シネ」

「!?」

窓枠に足をかける桜田を俺は止め、冴子は怒りまくっている神有彩をなだめた。
そんなこんなで、俺達の合宿は、始まったのである。




「・・・・暑いな」

「桜田さん・・・暑いですよ」

「あちゅいー・・・」

「・・・・」

黙っている神有彩をちらりと見た。

カキカキ・・・・

ヒヤシンスの絵の部分をはみ出る程大きくクレヨンで書いている。
・・・・どうやらあまり絵は得意ではないらしい。

カキカキ・・・・

カカカカカ・・・・・

カリカリカリカリ・・・

カリキュラム・・・・


「・・・・出来た」

・・・最期はよくわからなかったが、とりあえず出来上がったようだ。

「・・・これ凄い・・・マンドラゴラこえた・・・これ・・・実はヒヤシンスじゃなくて・・・ベマギャ・・・・!!」

俺と目線が合う。
何だよ・・そのベマギャ・・・の後は何なんだよ・・!

「・・コホン・・・・・・・・・・・・・花・・・」

言い直した。
冷や汗なのか、あるいは暑くて出た汗なのかよくわからなかったが、汗が滴り落ちた。


「それにしてもよぉ・・・・浦沢・・・」

「なんすか?」

「この暑いのじゃ、合宿の活動なんかする気起きないよな・・・」

頭をテーブルにくっつけて、うだる。
セミの泣き声が絶え間無く鳴り響く。
アブラゼミらへんだろうか・・・
すると突然、部室のドアが開いた。

「桜田君!!」

「あ・・・」

黒髪のロングにカチューシャ。
見間違えるはずがない。
鳳凰廻化学部部長だった。

「ちす・・・・」
「こんにちはー」
「・・・・ん」

「おー、君達も元気か!それより桜田君だよ!いるかな?」

「あ、鳳凰廻さん・・・ちす」

死にかけの顔で振り向いた。

「桜田君!頼まれてたものが完成したぞ」

その瞬間桜田の顔がパッと晴れた。

「マジっすか!!」

「大マジだ。見に来るか!」

「はい!ほら、君達も俺についてきたまえ」

後ろを向いて、クイッとムカつくまでに爽やかに指を動かし桜田が笑う。

「な・・・何があるんですか?」

「まぁ・・・ついて来ればわかる。とりあえず来い」

渋々、言われるがままについていく。
この暑さでしんどいが仕方ない。
そのままのノリで、冴子と神有彩もついてきた。
何かっていうとみんなで行動するとこを見るとやっぱりこの部活は仲がいいみたいだ。


そしてたどり着いた場所は・・・・

「理科室だよ、浦沢君」

「見たらわかります」

見覚えのある扉が目の前にあった。


中に入ると、すぅ・・・・と涼しい空気が当たった。

「涼しい・・・・」
「・・・いい」
「涼しいですねー」

俺ら三人は、ぱぁ・・・と表情が明るくなる。


「涼しいっすね・・・鳳凰廻さん」
「ああ、そうだろう。そうだろう。だから、君達にも造ったんじゃないか」

ほら、と手で煽る。
そこにはピカピカのクーラーが置いてあった。
おぉ〜と、目を輝かせる。
「マジっすか!?」

桜田が間髪入れず言う。

「ああ、マジだ。暖房も冷房もついてるぞ」

自慢げに胸をはる。
山田さんもそうだったが、三年生なだけに大人の色気、と言うのだろうか。そんなフェロモンが出ている。もっとも、ロリ好きな人には関係ないのであろうが、俺はどっちかっていうと大きい方が・・・・
・・・・話がズレてしまいそうなのでこの話は後々ということで・・・



「さらにだ!」

俺の妄想を切り裂くように鳳凰廻さんが、続ける。

「こいつには、加湿機能もついているのだ!」

「すごい!すごいよ!鳳凰廻さん!!」

(てか、こんな物をどうやって作り上げたんだ・・・・・?・・・化学部関係ないぞ・・・・?)


心の疑問を押し潰し、取り合えず笑顔を作っておいた。


「取り合えず・・・・君達はこれから合宿何だろう?」

「はい、そうです!鳳凰廻さんありがとうございます!これでこの夏は乗り切れそうです!」

「はっはっは・・・良いんだよ、桜田君」

嬉しそうに、胸をはって頭をかく。

「鳳凰廻さん・・・・所で・・・お代の方ですが・・・」

「いや・・・良いんだそんな物は、私は昔の仮を返しただけだよ」


・・・・昔?


「いえ・・・・あの時は、必死で・・・」


・・・・・必死?


「いや、あの時の君は実に男らしかった。あのまま行ってたら、私は君に惚れていたぞ?」

「やめてくださいよ。もう昔の話でしょう。それより・・・・もしよかったらうちの合宿に参加しませんか?」


・・・何!?

「それも面白いかもしれないな。よし、それもよかろう。参加させてくれ」

「ち・・・・ちょっと待ってください!」

すかさず、止めに入る。


「どうした?浦沢」

「桜田さん!それなんか間違ってません!?」

「・・・・あ、浦沢お前ヒデー」
「聡君、あくまですっ!」
「・・・・・サタン」


・・・・俺が悪いのだろうか。
ショックで思わず、遠い目をしてしまう。
すると、鳳凰廻さんが止めに入ってきた。


「いいんだいいんだ。桜田君」

「でも・・・」

「ふっ・・・・いいんだ・・・。だって・・・私が我慢すればすむ話なんだから・・・・」

少し涙を流しながら、寂しそうに微笑んだ。

「鳳凰廻・・・さん・・・」
「そんな・・・・」
「・・・・・・」

あれ?
何だろう・・・・俺が完璧に悪者に・・・・?


「あ・・・・あ・・・あの・・・・・・」

「ズズッ・・・・なんだい・・・浦沢君・・・」


明らかに泣いている。
だから・・・・

「その・・・来て下さい。出来れば」

・・・根負けした。


「マジか!マジかね浦沢君!」

「はい・・・・いいっすよ。」


パッと、桜田の方を振り向く。
子供のような無邪気な笑みしている。


「桜田君!」

「えぇ・・・一緒に部室に行きましょう」
「行きましょう。乃衣さん」
「・・・・・一緒」



三人が声をかける。
背中から光がかかっている。
なんか、暑いはずの太陽がキラキラと美しい。
こういうシーンだからだろうか。


「私は、こんなにも美しい人々を見たのは久しぶりだ。ありがとう諸君。部員達は部員達で連絡してないからか、部活に来ないし・・・悲しくなっていた所だったのだ」

(連絡してないのかよ・・・・じゃ、こねえだろぅ・・・)

「取り合えず、君達の部室に向かおうか。それから合流させてもらおう」

「解りました。鳳凰廻さん。エアコン運ぶの手伝って下さい」

「おう!」


四人で、楽しそうにエアコンを運んでいる。
やけに楽しそうだった。
それについていくように、俺も四人の背中を追った。




部室

「涼しいー」

ニコニコと冴子が笑っていた。

「聡君も涼しい?」

「うん、まあそうだね。涼しいよ。」

「涼しいよ・・・にゃは〜ん」


嬉しそうに、意味不明な言葉をいいながら自分の体を抱きしめていた。
何が嬉しかったのだろう?


「さて、エアコンもセットした事だしそろそろ活動に移るか・・・」

アロハな桜田が立ち上がる。

「そういや、活動って何をするんですか?聞いて無いっすよ」

「・・・・・・はい」


ワンピースの裾を直しながら神有彩が、手をあげた。


「おー、なんだ神有彩」

「・・・・プール・・・したい」


恥ずかしそうに、下を向きながら言う。
後ろに結っていた髪が少し揺れた。


「よし、わかった」

「わかったって・・・・プールはどうするんですか?」


すると、ニヤリと桜田が笑った。
普通は不気味と言うのだろうが、桜田がゲヘヘヘ等と言っていたからキモい。
しかし、感情を押し殺して、聞いた。

「・・・・・なんすか?考えでもあるんすか?」

「実はな・・・これも秘密結社の活動の一つなのだ!!」

「活動ってどういうことー?」


冴子が、割って入ってくる。


「実はな、市民プールをジャックした。」

「・・・・・はい?」

「ねー、聡君。ジャックって誰ー?」

「冴子ちゃん、ジャックは人名じゃないよ、ハイジャックの事ね。・・・・ってか、桜田さん!それって、やばいっすよ!犯罪じゃないっすか!!」

「ジャックの何処が犯罪だ?ジャックに失礼だそ!」

「黙れ!お前もジャックの意味知らなかったのか!!」


久しぶりに声を荒げてしまった。
そんな俺を宥めるように桜田は言った。


「すまない、冗談だ。それに犯罪じゃない」

「どーゆう事っすか?」

「払うもんは払った。だから大丈夫だ」

「ああ・・・・そうですか。なら大丈夫でしょう」


それは貸し切っただけではなかろうか。
と、思ったが黙っておいた。
しかし、貸し切ったと言ってもどれくらいの費用がかかったんだろうか。
それが可能だったとして、どのくらいの時間貸し切ったんだろうか。
不自然な疑問は多く残ったが、いずれにせよ黙っておくことにした。


「で、今から行くんすか?」

「そうだな・・・行くか」

「やった・・・・・やった」

神有彩が何度もシュビンシュビンと、ガッツポーズをキめている。

「桜田君。私は一旦うちに帰って準備をするとしよう」

「わかりました。では、楽しんできます。」

「ああ、終わり次第携帯に連絡してくれ」

「はい。じゃ行くか、浦沢」

「・・・はい」

「どうした?元気ないぞ?」

「何でもないっすよ・・・」


見たかったな・・・・鳳凰廻さんの水着姿・・・。









プールに向かう途中。
俺達は公園に立ち寄った。休憩のためである。
じりじりと蝉がなきまくる。
まとめて、みんなの分も買ってくるといったので、二人に金を渡し俺と冴子は日陰のベンチに腰掛けた。

桜田と神有彩は二人であーだ、こーだ、言いながら公園内のジュースの自動販売機へと歩いていった。


「そういや・・・なあ・・・冴子ちゃん・・・」

「ん?なぁに?聡君」

「あのさ、さっき鳳凰廻さんと理科室にいるとき何だけど・・・冴子ちゃん、鳳凰廻さんのこと(乃衣さん)って呼んだよね?」


そうだ。
あの、理科室でのやり取りの時冴子は確かにそう呼んだ。
ほとんど話したことがないひとなら、そうそうない限り普通は苗字で呼ぶのが普通では無いだろうか。
小さな疑問だったが聞かずにはいられなかった。


「あ・・・・それはですね・・・」


ゆっくりと確かに話しはじめた。

「乃衣さんは、昔から知ってるんですよ。」

「え?」

「お兄ちゃんと仲良かったから、昔からよく家に来てたんだよ」

「そうか・・・・いつから仲がいいんだ?桜田さんと鳳凰廻さんは」

「中学生くらいからかな・・・・家に来はじめたのは。ホントは小学校も一緒だったけどあまり話さなかったみたい」

「ふーん・・・・・ちょっと意外だな」

「そんな事無いですよ。昔から仲がよかったんですよ・・・・・ホントに・・・・」


少し表情に曇りが見えた。
それは、遠くを見ているような目線で。
この青い空さえも吸い込まれそうなほど遠くを見ながら。
いつもニコニコしている、少女には似つかわしくない表情だった。


「なんかあったのか・・・?昔・・・桜田さんに・・・・」

「・・・・・・・・・・」


しばらく黙ったままだった。
そして、


「私は・・・・病気がちで・・・・・お兄ちゃんになにがあったかわからないけど・・・・・ただ・・・・」

「・・・・うん」


言葉に困っているように、んーと唸りながら一生懸命考えている。
しばらく黙って彼女の言葉を待った。


「・・・・・私は、何も言えないけど・・・・でも、お兄ちゃんはあの時凄く大きな傷を負ったみたいなの・・・」

「そう・・・・なんだ」


見ていても辛そうだったのでこれ以上こちら側から聞くのはやめた。
でも最後に彼女はこう言った。


「お兄ちゃん・・・まだあの頃の事吹っ切れてないはずなの。だから・・・・」


ぐっ、と俺の左手を握る。
まだまだ小さくてあどけない手だった。

「いつか、お兄ちゃんの事・・・助けてあげて。」


真剣な眼差しでこちらを見て言った。
それに対して俺は


「・・・・・・わかった」


・・・そう答えていた。


「おーい、抹茶味のお茶買ってきたぞー」


遠くで、桜田の声がした。

「やったー、お茶だー!」

握っていた俺の手を離し桜田の方へ駆けていった。
いつもの笑顔で。


「・・・・・ん」


近づいてきた神有彩から、お茶を受け取りプシュ・・・・とプルタブを起こす。
それを一口飲んで、空を見上げた。
白い雲が青空をゆっくり泳いでいた。
真横には、レンガづくりの今はもう博物館となった古びた駅舎が立っていた。

そして・・・・・

俺は、桜田の元に神有彩といっしょに歩きだした。












後編へつづく!


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