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属に言う帰宅部の平均的活動
神有彩家の人々
「神有彩が休み?」



一人しかいない部室に、問い掛ける。
「ああ、今日早退したらしい」

「そういえば、冴子ちゃんもいないけど・・・」

「あいつは、委員会だ」

「(そういえば、クラスで選ばれてたな・・・)そう・・・・・ですか」

桜田が急に立ち上がる。


「悪い、今日は休みだ」

「桜田さんも用があるんすか?」

「ああ、乃衣さんに呼ばれてな」

「へぇ・・・」


桜田が部屋を出る直前で立ち止まる。


「そうだ、お前暇な時神有彩のとこに行ってやってくんねぇか?」

「べつに・・・いいですけど、こっからどのくらいの距離なんですか?家まで」

「詳しくは、わからんがここからバス乗って終点のとこから近い家らしい。豪邸だからな」

「えっ・・・あいつってそんなに良いとこの娘さんだったんすか?」

「あぁ、よくわからんがそうらしい」

そういうと、「詳しくは、その辺の人に聞け」と言い部室をでていった。






学校指定のバスに乗り、揺られること15分。

(見覚えの無い景色になってきたな・・・・確かこの辺は俺んとこのすぐ隣町だったっけ・・)

パラパラと、ビルが建ち並ぶ俺の町とは違い、この辺は平屋が多く、どこと無く懐かしい雰囲気をかもちだしている。






バスから降り、辺りを見回す。

(全くしらねぇ・・・・)

とりあえず周辺をうろうろしてみる。
水を辺りに撒いているおばさん。

犬の泣き声。

ランドセルを背負った小学生がアイス片手に、カードゲームの話をしている。


どこと無く、わすれかけていた雰囲気に浸りながら歩いていると見覚えのある表札がぶら下がっていた。
「まさか・・・・ここか?」
それは俺が思ってた以上に素晴らしい所だった。
どこかの、時代劇に出てきそうなその風格ある門は、とてもじゃないが俺のようなものが近づける所じゃ無かった。

やばい・・・やばいと思っていると、門の間から鋭い目をし、エプロンをした若い女性が顔を出した。

「・・・・」

「あっ・・・・どうも。」

「どなたです?」

「神有彩・・・じゃ無くてマヤさんに用があって来たんです・・・」

「・・・・しばらく」

そう言って、女性は家の中に入って行った。

(マジカヨ・・・ありゃメイドじゃねえか・・・いや・・・使用人か?いや・・・・それより、そういう人を雇ってる時点で、すげぇじゃん・・・お金持ちって何やっても凄いじゃん・・・)

・・・としばらく呆然と立ち尽くしているとさっきの女性が帰ってきた。


「浦様・・・ですね?」

「(う・・・浦!?)・・・・はい。そうです」

「・・・こちらです」



ギギ・・・ガラガラガラガラ・・・・


古びた門が真横に開く。

一歩敷地内に足を踏み入れると真っ白な砂利が、音を立てた。

「すげぇ・・・・」

「・・・何か?」

「いえ、別に」

「佐用でございますか・・・」

「それより、あいつは大丈夫なんですか?」

「お嬢さまの事ですね?」

「・・・まぁ、そうですね」

「ただの、軽い風邪のようです。ご心配おかけします」

「いっ・・・いえいえいえいえ・・・」


丁寧な言葉づかいをされて戸惑ってしまう。

(それにしても・・・・あいつが、お嬢さま・・・・)

今まで、普通に接してきただけやっぱり、驚いた。

頭がよさそうで、無口で、無愛想で、でも優しくて・・・・・。
たまに、ボケて・・・・。

そいつが、ここじゃお嬢さまなんだもんな・・・・

すげぇよ・・・
やっぱり。


「浦さん」

「・・・はい?」

「私、ここの使用人である。(女満別)と申します」

「はぁ・・・・わかりました。あと僕ホントは、浦沢って言うんです」

「佐用ですか。お嬢さまは浦と申しておりましたので・・・」

「あいつなら、言いますね」


他愛のない会話をしながら玄関に入る。

やはり、玄関も凄い事になっていた。

馬鹿でかい年輪が俺を迎えてくれた。

亀の置物が俺を睨んでいる。

靴を脱ぎ、女満別が出してくれたスリッパにはきかえる。

どこと無く、優しいヒノキの香りが鼻の穴に流れ込んでくる。

長廊下をゆっくり歩く。
ふと、横を見ると鹿おどしが音を立てていた。


しばらく歩くと、一つの部屋から声が聞こえてきた。
男の人の声と、聞き覚えのある声。

聞き耳を立てて、聞いてみる。


「マヤ、お前もう寝てろ・・・・」

「やだ」

「なんでよ?」

「お兄ちゃんの事・・・好きだから」

「あのな・・・」

「好きになっちゃ・・・駄目?」

「いや、ダメじゃないけど・・・・」



(誰だ・・・誰と話しているんだ?)

気になるので、意を決して部屋の中へ入ろうとすると、部屋から若い男の人が出てきた。
びっくりして、顔を上げるとその人も俺の存在に気がついたようだった。


「・・・・?」

「あ・・・・あの・・マヤさんの容態を見に来たんですけど・・・・」

「あ・・・マヤのお友達?」

「ああ、はい。そうです・・・」


男の人は部屋に顔を突っ込み、

「マヤ。お友達が来たぞー」

と、報告をしている。


「あ・・・あの・・・すいません」

「なんだい?」

「あの・・・どちら様でしょうか?」

「ああ。僕?」

「はい・・・」

「僕は、(神有彩 優)マヤの兄だ」

「あぁー。これはどうも・・・・」

「君はもしかして・・・・桜田君かな?」

「・・・・桜田は今頃、女と遊んでますよ」

「あれ?じゃあ・・・・・・浦沢君かな?」

「そうです」

「へぇ、君が噂の・・・」


この家族では俺はどんな噂になっているのだろう・・・・。


「まぁ、いいや。とりあえず、僕は家事を終わらせてくるから」

「あの・・・・俺は・・・・」

「君はマヤのそばにいてあげて」

「わかり・・・・ました」

そして、彼は俺の横を通り過ぎていった。


「・・・・浦?」

「えっ・・・そうだけど」

「・・・・入って来て」


言われるがままに黙って入る。


「わぉ・・・・・」


目の前に飛び込んで来たのは巨大な熊の縫いぐるみだった。
窓際には所狭しと、うさぎやら、いろいろよくわからん縫いぐるみがおかれている。

そしてベッドには・・・

「・・・・・んに・・」


毛布に包まって眠そうにこちらを見ている神有彩がいた。
手には、うさぎのくたっ
・・・とした縫いぐるみが握られていた。
「お前・・・・結構女らしい部屋にすんでるんだな・・・」

正直、ここにきてから驚きっぱなしだった。

豪邸の家。

兄の存在。

そして、この部屋

俺を驚かせるには十分過ぎる光景だった。


「・・・・・浦」

「なんだ?」

「・・・ありがと」

「あ?」

「お見舞い・・・・ありがと」

「あぁ・・・・はいはい」

「・・・・・浦・・・」

「なんだよ」

「・・・・あっち向いてて・・・」

「なんでだよ」

「・・・・恥ずかしい・・」

「え?」

「パジャマ・・見られるの・・・恥ずかしいから・・・」


そう言って、毛布に顔を埋める。


(あれ・・・?なんか・・・・・可愛い・・・?)

見つめていると、なんか心がキュン・・・・・と。




「・・・・・ないな」

「・・・・・なに?」

「なんでもない」

「・・・・そ」


ベッドに横になりながらうけ答えしていた。


「しかし、驚いたぞ。お前結構いいとこのお嬢様ってやつだったんだな」

「そんなことない」

「だってお前、こんだけの庭があったら結構な金が・・・」

「この家、お母さんのもの」

「へぇ、お母さんもさぞやいい人なんだろうな」

「・・・・いない」

「・・・・・・・・・・へぇ・・・・そう・・・か」


親がいない人にあうと、いつも思う。
彼等にかけられる言葉はなにもない。
そして沈黙が訪れるだけなのだ・・と


「気に・・・しないで」

「わ・・・悪い」

「私の家、先祖代々からこの家にすんでるの」

「・・・へぇ」

「私のお母さん。私を産んだ時ぐらいから体弱くなって・・・」

「・・・・あぁ」

「家で寝たきり・・・・ずっと四年間。そして私が中学校に入った歳に・・・・」

「・・・・」

「でも・・・今はお兄ちゃんが優しいから・・・」

「そうだな・・・・あの人・・・いい人そうだしな・・」


しばらく何も話せない空間が続いた。
すると・・・

ガラガラ・・・・

「マヤ、りんごむいてきてやったぞ」

「あ・・お兄ちゃん・・・」

「浦沢君も食べて」

「あ・・・ども」


よこで神有彩が何やらもじもじしている。


「マヤ。どうした?」

「お兄ちゃんに・・・食べさせて欲しいな・・」

「はぁ・・・・解ったよ」

「やった・・ワーイ」


ニコニコと嬉しそうに微笑む。

こんなに笑っている彼女を見るのは生まれて初めてだった。
学校では、ほとんど笑わないのに・・・

あーん。と口を空けてりんごを嬉しそうに食べる神有彩を、何となく見つめていた。



「さて、僕はそろそろ夕飯の支度をしなきゃな」

「あの・・・俺手伝います」

「え?いいのかい?」

「えぇ、何か手伝える事あったら手伝わせて下さい」


「お兄ちゃん・・私は・・・」

「お前は、おとなしく寝てなさい」

「・・・・お兄ちゃん大変じゃない?」

「ああ。浦沢君がいるから何とかなるだろう、それに女満別さんもいるし」

「お兄ちゃん・・・・・」

「なんだ?」

「・・・・チューして」

「・・・何歳だよ」

「じゃあ・・・なでなでして・・」

「仕方ないな・・・・」



腕を伸ばし優さんが、神有彩の頭を撫でる。
すると気持ちよさそうに目を細めて布団に顔を埋めた。



「ちゃんと寝てるんだぞ」

「じゃあな、神有彩」

「・・・・・ん」

そして俺達は静かに扉を閉めた。

廊下を歩いている間、俺は考えていた。

(神有彩・・・・なんか、兄の前だと違うな・・・)



「浦沢君」


「うっ・・・・おあっ・・・・なんですか・・・?」

「君、マヤの友達だね」

「いや・・まあ、そうですけど・・・」

「ありがとうね」

「・・・え」

「あいつ、学校じゃ無愛想だろ?だから心配してたんだ」

「ああ〜、そうなんですか」

「家じゃ、あんなに元気なのにな・・・君も思ったでしょ。なんか違うって」

「ええ・・・・優さんにデレデレでしたね」

「えっ?」


余計な事を言ってしまった気がしてひやりとする。


「あっ・・・すいません」

「いやいや、いいんだよ。事実だし」


笑って許してくれたようなので、ホッとした。



「マヤ。母親に甘えられ無かったんだよ」

「はい・・・彼女から聞きました」


「・・・・一番甘えたい時期にずっと母さんは病院でね。だから僕が母親がわりにならなくちゃ、ってずっと思って過ごしてきた」

「だから・・・・なんでしょうねあんなに優さんに懐いているのは」

「ははは・・・・でも、さすがにあの歳でチューしては、無いよな」

「驚きましたよ・・・俺も」

「実は、中学2年ぐらいまで一緒に風呂入ってたんだぜ」

「え・・・まじっすか?」


「マジマジ。僕も憂鬱だったよ。毎日あいつと背中洗いあったりするの」



流石にちょっと引いてしまった。
でも、それだけこの兄妹は中が良いんだろうな。



気がつくと、台所についていた。

ふと横をみると女満別が、両手にビニール袋を持って立っていた。
恐らく夕飯の材料を買ってきたんだろう。
もしかして、このメイド服で行ったんだろうか。

「そりゃ、いかんだろう・・・まほろさんかよ・・・」

「何か・・・?」

「いや別に・・・・」


これ以上話す事も無かったので俺も夕飯のてつだいに回ることにした。






「・・・・出来ましたね」

「へぇ、なかなか本格的ですね」


「じゃ、私かお嬢さまの方までお持ちいたします」

「そうかい、悪いね。浦沢君もすまなかったね。手伝わせちゃって。時間大丈夫?」

「はい。今から帰れば何とか。」

「そう。じゃ気をつけて帰ってね」

「はい。ではまた」


玄関に出て靴を履いていると、背中から声がかかった。

「浦沢君」

「・・・はい?」

「マヤを・・・・よろしくね」

「はい!」


そう言って俺は神有彩家の玄関の扉を閉めた。



庭の方では、鹿おどしが静かに音を立て、夜の風格ある景色を演出していた。

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あきゅろす。
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