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*汗


委員会のない休日を持て余した三之助は、体力をつける自主トレの為に一緒に走り込むと言った藤内と校舎周りを走っていた。
何周走ったかわからなくなった辺りで振り返れば、ふらふらと足元が覚束ない藤内の様子を見て、三之助は走るのは中止だと藤内を連れて強制的に部屋に戻った。

「藤内、水」
「……ん、」

ぐったりと蒸し返すように暑い気温よりは冷たい床に、顔を押しつけるように倒れている藤内に塩を僅かに混ぜた水を渡す。
半身だけ起こして水を受け取った藤内を近くにあった本で扇げば、気持ちいい、と軽い熱中症で倒れた藤内がぽつりと呟いた。

「大丈夫か?」
「何とか…」

ただの水だと思い込んでいる藤内が受け取ったそれをぐいっと仰ぐように飲んでから、塩辛さに眉を寄せたことに小さく吹き出せばじとりと睨まれた。

「何か入れた…?」
「塩」

あっさりと白状すると更に深く皺が寄る眉間に手を当ててみれば、水でもかけたように汗をかいている自分とは違って、微かに湿っている程度しか汗をかいていない藤内に気が付いた。

「そういうことは先に言……三之助……?」

不満を漏らす藤内の前髪を掻き上げるようにすれば、つーっと額を伝う汗が目に映って、床に垂れる前にと反射のようにそれを舐め取った。
ひっ、と藤内の肩が跳ねるのを感じながら、塩辛いと素直な感想を漏らす。

「……っ!」

髪の生え際にじわりと浮かぶそれを追うように下を這わせば、三之助、と震えた声で名前を呼ばれて顔を下げる。
存外近くにあった顔に驚くよりも先に、顔を赤くさせながらきゅっと口を閉じた藤内と目が合って動きを止めた。

「えーと……藤内…?」
「………」

よく見ればふるふると小刻みに身体を震わせる様子に、思わず三之助は視線を逸らす。
やりすぎた、と後悔しても遅いかと、がしがしと頭を掻いて必死に話題を探した。

「あー……俺のも舐める…と、か……」
「……は?」

そうすればお互い様かも、と何も考えずに差し出した腕を見て驚きで目を丸くした藤内に、だよなぁと三之助は他人事のように思ってしまった。
試しに自分の頬を伝う汗を舐めてみたが、味気ないそれは普通に舐める物ではない。
ましてや他人の何て、と自分の発言を撤回するために藤内と向き合えば、ずいっと顔を近付けてきた藤内の顎が視界に映った。

「と、」

藤内、と呼ぼうとした口は開いたまま音を発することなく、終わってしまった。
舐めるというよりは吸うように、額にあてられた口がちゅうっと音を立てる。
止まった思考とは裏腹にざわりと疼く身体に、三之助は頭を抱えるようにして吸い付く藤内の肩を掴んで勢い良く剥がした。

「……三之助のは塩辛くない…」
「そりゃ発汗作用はいいから……って違う。藤内、今のは…!」

俯いたままぽつりと感想を漏らす藤内に突っ込みを入れてから、遅れてばくばくと音を立てる心臓を落ち着かせるために服の上からぎゅっと握り締める。
やった側だというのに耳の方まで顔を赤らめる藤内を見て、三之助は思わず口を閉ざしてしまう。

「…な、困るだろ……?」

こういうことされると、とぼそぼそ呟く藤内に釣られて同じぐらい顔を赤くした三之助は、ごもっともです、と返したのだった。



END



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