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↑おまけC


「本当、藤内が通りかかってくれて助かったよ」

布団を敷きながら言う数馬に、藤内は乾いた笑いを浮かべた。
厠に行くだけだというのに、転んだり落ちたりと様々な不運に見舞われて時間を食い、何とか用を足した数馬が自分の部屋に帰れば、何故か三之助と左門が作兵衛に抱きつくようにして眠っていた。
思わず数馬は扉を一度閉めてしまったのだが、そろりと隙間から覗いた光景は変わらずに、入りにくい空気にどうしようかと頭を抱えていたところを藤内に発見されたのだ。

「まあ、ここ、作兵衛たちの部屋なんだけどね」

少し汚れている数馬に替えの服を渡しながら、藤内は呆れたように呟く。
迷子二人が部屋を出て行ってから中々帰って来ないので探しに出たのだが、まさか自分たちの部屋が乗っ取られて、部屋の外で同室者が入れない状態になっているのは予想外だった。
結果的に部屋を交換する形になったのだが、これで良かったのかと着替えている数馬に問う。

「何が?」
「作兵衛の看病の為に俺と部屋を交換したじゃないか」

これでは意味がないと言えば、そうだねぇと緊張感の欠片もない答えが返ってきた。

「今日だけは特別、ね」

二人とも作兵衛が恋しいみたいだし。
あんな状態見たら、起して追い出すわけにもいかないだろ、と言う数馬に藤内は頷いた。

二週間と言う期間は、意外と長いらしい。
日に日にぼーっとする回数が増えていく左門と三之助に、同じ部屋で過ごしていたのに結局元気付ける為の声をかけてやれなかった藤内は、自分の言葉の足りなさに唇を噛む。

「……藤内?」
「…ん」

布団の上に座って俯く藤内の顔を覗きこんでから、数馬は勢い良く藤内に飛びついてそのまま布団の上に押し倒すようにして転がった。
ぶっと身構えていなかった藤内は噴き出すが、何をするんだと数馬の頭を小突く。

「……僕さ、布団が代わると寝れない体質なんだよね」
「………はぁ?」

突拍子もない数馬の言葉に藤内は間の抜けた声を発するが、本人は気にした風も無くぐりぐりと胸の辺りに頭を押し付けていた。
藤内の匂いがする、と変態臭い発言をする数馬に離れる気は無いようで、放置することに決めた藤内が寒いと呟けば、近くにあった掛け布団を手繰り寄せた数馬が二人で収まるようにもぞもぞと動く。
折角敷いたのに、と数馬が敷いていた布団を映していた視界は、掛け布団によって遮断されてしまった。

「なんか、懐かしいね」

一年の時はお化けが出たら恐いからと半泣きになって藤内の布団に潜り込んでいたと数馬が懐かしさに笑えば、藤内も思い出したかのようにあぁ、と声を漏らした。

「数馬、怖い話とか苦手だったもんね」
「まぁ、元はといえば、恐さに慣れる予習だ!とか言って毎日毎日寝る前に変な話ばかり聞かせる藤内に原因があったけどね…」
「そうだっけ?」

恨めしそうな数馬に藤内が惚ければ、この野郎と冷えた足が布を纏っていない部分に触れてくる。
余りの冷たさに身を捩って逃げようとすればするほど絡み付いてくる足に辟易して、許しを請うように髪を引けば、してやったりと得意気な顔をする数馬に挑発されて、藤内は細い腰に手を伸ばした。

「っぅわ!」

腹が弱いことは承知の上で、こしょりと腹を擽ってやれば数馬の口から上擦った声が漏れる。

「ちょ…と、藤内…!」
「何?」
「ふっ……やめっ…ははっ」

絡んでいた足を離して逃げようとする身体を逆に押さえ付けて、止めて、と笑いながら言う数馬を擽る。
手を離す頃にはすっかり息が上がっていて、戯れたことで熱の籠もった布団から抜け出すように藤内と数馬は顔を出した。

「……何してんの僕ら」
「さあ?」

はーっと新鮮な息を吸い込んでから我に返った2人は、顔を見合わせてくすくすと笑った。
再び胸元に顔を押しつけてくる数馬に、だから何だよ、と意図の掴めない藤内が厭きれたように背を叩く。

「…藤内が、恋しくなりまして」
「……なにそれ、告白?」
「うん」

からかうように言ってやれば、同じく冗談だとわかるようなノリで頷かれた。
好き好き、と軽々しく発言する数馬に可笑しくなって、藤内も返すように数馬をぎゅっと抱き締める。
数馬の匂いがする、と言えば変態だと笑われて、お互い様だと少しだけ湿った髪に顔を埋めた。

「そういわれると、なぁ…」
「うん」

脳裏を過るのは部屋を乗っ取って幸せそうに眠る3人の姿で、こっちは最近満足に寝れていないのに、と無意識に漏れた自分の呟きに気付く。

「環境が変わるとね」
「そういうものかな…」

最初の内に感じる違和感は仕方ないと思っていたし、近頃は慣れて大丈夫だと思っていただけに、少なからず衝撃を受けた。
久々に嗅ぐ数馬の香に、藤内は安心したように軽く欠伸を漏らした。

「眠い?」
「………かも、」

顔を見上げるようにして確認してくる数馬に、目を半分閉じた状態で頷けば、寝やすい体勢を確保するようにもぞりと数馬が動いた。
ひたり、と触れる足はやはり冷たいが、徐々に互いの体温が移って暖かくなると気にもならない。
そのままぬくぬくとした心地いい暖かさに包まれて、意識を飛ばす直前に聞こえた声に反射的に返してから、藤内は目を閉じた。

「おやすみ」


End







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