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ポタリ、ポタリと滴が響く。
肌寒くそして暗い。
その所為もあって、瞳を開くも眩しいとは感じさせなかった。だがそこには自分を覗き込む姿がモヤのようにちらついている。
「…っ、う…」
「! 気がついた。ねえ、大丈夫?痛いところは?」
語りかけられた少年はその質問に首を横にふる。
そうしているうちに視界がはっきりしてきた。瞳に写った少女は安堵の笑顔を見せている。
「よかった…ごめんなさい、私が守ってあげられなかったばかりに」
「サジ」
「…?」
「なまえだよ」
ついでにと年齢も告げられた。9つ。それにしてはとても落ち着いた雰囲気の子どもだと少女は思った。
「そう、サジ。私は…ええと」
「知ってるよ。ウェンでしょ?」
「……」
この様子では自分の身の上話をする必要はないようだ。もっとも、こんな幼い子どもに知って欲しくはなかったが。
そうなると、指名手配犯と2人きりで不安にならないか心配になる。
「…ごめんね。こんなところ、すぐに出してあげるから」
とはいうものの、辺りを見回しても扉はなく四方壁だけに囲われた部屋。一体どうやって自分たちをここに閉じ込めたというのか。
自分たちをここに連れてきたのはおそらくあの井戸から伸びた無数の手…
思い出すだけで背中がぞわぞわする。
「ちょっと絵的に怖かっ…ううん」
「ウェン、顔が青いよ?」
「え?い、いや気のせいだよ!たぶん…」
「叫び声もすごく大きかったけど」
「さ、さて!まずは出口を探さなきゃ」
焦り口調の少女に対してふうんまあ別になんでもいいけど、と至って淡々と返すとある方面に向かって人差し指を伸ばした。
「そこ」
「?」
サジが指す先はなんの変哲もない石積みの壁。
「扉がある」
「扉?そんなのどこにも…」
サジが壁に向かって歩き出す。
壁なんて視界に入っていないようで、壁まであと一歩というところまできても歩みを止めない。
「ち、ちょっとサジ」
ぶつかる、そう思った瞬間。
サジの体はスルリと壁を波立てて、壁の中に消えた。
「え!?」
確かに見た。見間違いじゃない、と目をこする。サジは魔法でも使ったのだろうか?少女はとりあえずサジが消えた辺りの壁に向かって彼を呼んだ。
「サジ…?どこにいるの?」
「ここにいるけど」
「ひゃ!」
「変な声」
「壁からサジの声がする」
「…? 何言ってるの?」
サジにとっては少女がここまで不思議がっている意味がわからない様子だった。そして少し考えて、彼なりの予想がついた。
「もしかして、ウェンにはここが見えてないの?」
そう言うと壁からぬっとか細い腕が伸びてきて、少女の服の裾を掴んだ。そのまま弱い力で壁の中まで引き込む。
「こっち」
「わ!って、…あれ?」
「壁なんてないでしょ」
「な、なにここ」
少女もなんなく見かけ倒しの壁をすり抜けられた。そこは細い通路で、路の先には平然と次の部屋へと扉が佇んでいた。
「私には壁にしか見えなかったのに…」
(不思議な仕掛け…。普通の人には見えないのかも)
普通の人間には扉が見えないから、あの魔物は自分たちをこの部屋に放り込んだのだろう。何の目的かは分からないが、少なくともこの場から逃げ出さないように。
でもサジには通用しなかった。
「僕は、おかしいのかな」
彼自身も彼が見えているものが普通じゃないということは分かっていた。しかし少女はそんなことないと首を横に振る。
「サジは心がキレイなんだね、きっと」
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