A 「綱吉くん」 骸は綱吉を呼ぶ。そして違和感を感じた。 (何故)拭いきれないそれは日に日に増殖してゆく。そして骸はある日思った。(嗚呼わかった) 「沢田綱吉。こちらの方がしっくりくるのに、何故だか綱吉くん・と呼びたいんです。」 「へえ、」 「貴方は僕にやけに自然体ですね」 「知り合いだからだよ」 そうなんですかと骸は驚いた。綱吉は笑った。 「見ず知らずの人間を苦労して家まで連れてきたりなんてしないよ」 救急車よぶよ。 骸は違和感を再び覚えた。(何故) 「何故医者を呼ばなかったんですか?」 え、と綱吉は目を見張る。それを見て嘘が下手だなと思う。 綱吉は口をつぐんだが追求する気はなかった。 自分と彼の間にはなにか、見えない壁のようなものがあると骸は思った。触れられない。 切に触れたいと願うのに手が出なかった。 彼を知りたい。 失った己よりも綱吉を知りたかった。きっと彼を知れば自分も存在できると思った。自分のルーツはきっと途方もないものだと感じる。果てない世界・知ることは出来ない。綱吉の知る「六道骸」は何をみて何を知り・綱吉と何を分かち合った? 壁が憎らしい。 壊してしまえばどうなるのだろう。 奈々の作るご飯は美味しかったし、家庭教師らしい赤ん坊は何やら物知り顔をしている。やたらと強いので抱き上げる事も出来ない。綱吉につきまとう子供たちは骸を恐れる節があった。 「骸、外でてみる?」 「はい」 綱吉が口にださないから外出してはいけないのだろうと思っていた骸は心中驚きを隠せなかった。 奈々の買い出しのついでに散歩と言った綱吉の横顔を盗み見ると微かに強張っているような気がした。(嗚呼すみません)なんとなく謝らなければすまないような感覚。 骸は隣を歩く綱吉の手をぎゅっと握った。 「えっ?」 「なんだか懐かしいです。コレ、」 記憶を失う前の僕は誰かと手を握っていたのでしょう。 切なさに似た懐かしさで胸が温かくなる。 綱吉を見ると、泣いていた。堪えるように声を押し殺して泣いていた。繋がれた左手はそのままに右手で涙を拭う。しかしぎゅっと閉じられた瞳からは涙が溢れていた。 どきんどきんと早鐘のように鳴り響く胸。骸はどうしたらいいのかわからなかった。 「綱吉くん、」 「ツナ!!」 二人は振り返った。 「山本…」 綱吉が泣きやんだのを見て骸は少しだけ胸が痛かった。早鐘は止まっていた。 何してんのお前ら。おっ!ていうか骸じゃん。何?ツナの事虐めてんのか。許さねえよ。 「違うよ山本。目にゴミが入っただけ」 綱吉は笑って話す。 ツキンと胸に何かが刺さったと骸は思った。 (ツナ?…ツナヨシ、) 「買い出しか?」 「うん。あと散歩」 「そっかー、頑張れよ」 (あ・触った) 「うん。あはは、山本っ頭なでないでよっ子供みたいじゃん」 「ツナは子供だろー」 (…馴れ馴れしい) 痛みだけではなく色々な感情が浮かんでは消えた。汚い、と感じた。こんな醜い感情は要らない。 気持ちが徐々に冷めていくのを骸はどこか遠くで見つめていた。 じゃーなと山本が去ると骸は呟いた。 「彼、僕の事を知っていましたね」 「…そうだね」 綱吉の表情はピシリと強張った。骸はそれを見逃さなかった。 「君は僕に他の人間・僕の事を知る人間を会わせたくなかった。だから彼に何も言わなかった!!」 気持ちが高ぶる。 自分を抑えられない。 「君は僕の記憶が戻るのを賛成していない…!そうでしょう?違いますか沢田綱吉!!」 「っ…、」 否定も肯定もしない綱吉を見つめて骸は不意に綱吉を抱きしめた。 触った。触れた。 だけど壁は壊れなかった。 ←→ |