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B


アイツは苦手だった
あの声も・瞳も、
オレを貫いて・射殺して
だけどその掌は
優しくて苦手だった


花の中で死なせて



結局買い物をすませて何も言わない綱吉の後ろを少し離れて歩いた。綱吉の表情は見えなかった。

「ただいま、」
ぽそりと呟かれたセリフに奈々はお帰りなさいと返した。そしてその後の骸にもお帰りなさいと話しかけた。
「ただいま…」
骸も小さな声で呟いた。
そのまま自室に向かった綱吉を追い掛けようか迷い、そして追い掛けた。

綱吉の部屋には家庭教師はいなかった。子供達もいなかった。一緒に入ってきた骸を追い出す事もしないで綱吉は立ち尽くしている。
「綱吉く」
「むくろ、」
ふつりと紡がれた言葉にひくりと骸の動きが止まる。振り返った綱吉の表情に骸は自分の胸を何かが掠めた気がした。
(嗚呼・嗚呼…この顔は見た事がある)
何時だっただろう。そんなに昔ではない気もするが随分前だったような気もする。
綱吉がもう一度骸と呼び掛けた。
「記憶を失う前のお前は、過去に居るんだ」
「はっ、?」







お使いのお礼、と奈々の出した紅茶とケーキが二人の前にある。綱吉はそれを摘み、骸はというと唖然と傍観するのみである。訳がわからないといった風だ。そんな骸を見て綱吉はそっと話し出した。







**********

骸は最近意識を失う事が多かった。それでも目が覚めている間は必ず綱吉の手を握ってくれたし、優しく微笑みを浮かべるものだから綱吉は安心した。
そんなある日、常のように意識を失った骸は目覚めた時に呟いたのである。水が波紋を生むように徐々に広がる不安とも恐怖感とも形容しがたいそれは綱吉の骸の手を握る力を強くさせる。
「僕は過去にいるのです」
ふ・と視線を下に落とす。
「僕の意識は永い年月を生きた過去に戻るのです」
「なんで」
「僕は永く生きすぎた。輪廻を越え限界が近い。少々、疲れたのです…永い眠りが必要になりました」
「やだ」
「綱吉くん、」
「やだ。やだ骸…消えないで」
消えません。少し過去を廻るだけです・と微笑みながら返す。
(嗚呼この人の笑みは)
優しいから、
「嫌いだ」
「そんな事を言わないで下さい…傷つく」
(嘘つき)
そして綱吉は骸から過去の話を聞き、そしていつの間にか眠りに落ちて、目覚めたら―――








「骸…?」
眠る骸は綺麗だった。
(もしあなたが目覚めたら、オレはどうすれば・いい)
そっと骸の手を握った。存外に温かくてなんだか綱吉は泣きたくなった。
(どうしよう…骸が好きだよ)
静かに浅く呼吸を繰り返す骸に口付けた。これがお伽話なら骸は目覚めてもいいのに。過去にいる骸は何を思って何を見つめているのだろう。
(オレ以外を見ないで思わないで)


**********


「じゃあ…今の僕はなんですか?」
骸はぽつんと漏らす。綱吉は骸を見つめた。
「オレにも…よくわからないんだ。だって目覚めたら記憶がないって言うんだから」
もしかして過去の自分を全て消してしまったのかも知れない。
「…時々・ふと君に胸がざわめくんです。嗚呼この顔を見た事がある、と。それは最近でも随分前の事にでも思われる。これはきっと過去の僕の記憶だと思うんです」
骸は綱吉の前髪をそっと撫ぜ、そしてそのまま頬に手を寄せた。
「過去の僕は過去をさ迷い、戻れないのではないでしょうか」
驚きに目を見開いた綱吉は徐々に目を細めて涙を浮かべた。骸にしがみついて鳴咽を漏らした。
「骸を…助けて」









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あきゅろす。
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