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短い物語
『声』(4)白龍
とろとろと、目を覚ます。
少し、まだ眠い。
「おはようございます、白龍さん」
「おはようございます」
抱き枕の様に大人しく抱かれている彼女を目の前にして少しだけ違和感を覚える。
あぁ、それもそうか
あの忌々しい白い布は、もう二人の間には、無い。
視界を遮られることなくその赤い髪をこの目に映せることがこんなにも幸せなものだとは思わなかった。
「白龍さん?」
こてりと首を傾げて不思議そうに見る彼女は単純に愛おしい。
感情を表に出すことは苦手のようでその表情筋が動かされる事は滅多とない。
されどその感情を機敏に読み取れるのはあの視界が遮られた中での交流に他ならない。
そう思うと少し皮肉だな、と思う。

自分の中で思い出にしようとしていたものがいとも簡単に色を吹き返し、ぐちゃぐちゃと己を染めていく。

「お腹、すきました?」
とんとんと首筋を指さし着ていた寝巻きを肌蹴させ促す。
ふるふると首を振って拒否をするけれど以前から一緒に居たのだ。彼女の飲む量、回数、頻度。それくらい覚えている。
人間と同じ様に1日3回。
彼女は食事する。
人間と、同じ様に。
何をそんなに拒むのかは知らないが食欲も当然あるだろう。
一向に飲む気配を見せない彼女に少し苛立ちを覚える。あぁ、もう。
グッと彼女の後頭部を手で抑え顔を固定する。その行為に驚いたのか少しばかり目が見開かれた。
「はく、んむっ」
俺の名前を紡ごうとした唇に無理矢理に指を突っ込み牙に指先を押し付けるとぷちりと少しの痛みと共にくい込んだ。
彼女がようやく観念したのかちろちろと舌を這わせて舐め啜りだす。

あぁ最初から素直に飲んでおけば良いのに。

ゆらりとカーマインの瞳が揺れる。
その中の自分が酷く歪んで見えたのには、今はまだ、目を閉じておきたい。




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