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同人的?
コイは盲目的な
「知ってますよ」

たぶん恨みがまし気な目つきになっているとは思いながら、軽く流してみる。
ほら、イルカ先生は素知らぬ顔。
予想がついただろう自分からの非難を無視して、受け取った書類にしっかり目を通して、尚且つ受領印を押してしまうからさらに言い募ってしまう。
「知ってるんですよ」
重ねた言葉に『へぇ』なんて気の抜けた返事をしてイルカ先生は次の書類に取り掛かる。
歯牙にもかけないとはこのことだ。
あまりな態度に心の中は湿っぽさでいっぱいだが、片目だけが出た忍装束では判りづらいには違いない。

けど。

(仮にも恋人でしょ)
そう言うと嫌がられるから言わないけど、ちょっとは気にして欲しい。
湿った視線に気付いてほしい。
「すみませんが、カカシさん。次の方が待ってますので、書類をお持ちでないなら退いてもらえますか」
受付用の完璧な笑顔だが、目が笑ってないよ。
表情そのままで後ろに並んだ同業者を振り返ったら、たいして睨んでもないのに顔を強張らせて一歩後ずさってしまった。
格下相手に凄んだつもりはなかったけど。
「お待たせしました。書類を」
なんだか自分のときとは違う柔らかな気遣うような声音に身に纏う雰囲気に険が増した。
その同業者はイルカ先生と上忍の自分との間に挟まれる形になったことで前に行くにも引くわけにもいかない状況に陥り、書類を握り締めたまま固まった。
簡単な膠着状態に他の同業者はさっさと退避して他の受付を利用している。

憐れな生贄。

それをどうにかしてしまおうと体の向きを変えようとしたところで上着の後ろを引っ張られた。
鼻先を漂うタバコの臭いには当分前から気がついていたが、この瞬間に介入してくるとは思わなかった。

「受付の前で何をぐだぐだしてんだ。邪魔だ退け」

犬猫を扱うような手つきで自分を受付に並ぶ列から連れ出し、廊下に放り出す。
部屋中が安堵した雰囲気で満たされるのを感じた。
「ありがとうございます、アスマさん」
イルカ先生の声が聞こえたが、アスマとイルカ先生相手にこれ以上どうにかすると、その上から今度は呼び出しがかかりそうで尻尾を巻いて退散することにした。

(知ってるんですよ)

その言葉に何か反応が欲しかっただけなんだけど。
ただの遊びですよ。
とか。

腹の底で煮えたぎるものはあるけど、本気でないなら許せる気がしないでもない。
許す努力をしないでもない。
本当に許せるかは別にして。

(落ち込む)

いつもみたいにポケットに手を突っ込んで、猫背で歩きながら話し掛けづらい雰囲気を作って廊下を歩く。
見た目にはいつもと変わらない。
すぐに追いついてくるタバコ臭い気配の持ち主に鬱陶しがられるのは必至だ。

「女みたいにヒステリーかよ」

笑いを含んだ声に振り向かず。
ついでになんの反応も返さず。
そうしたら更に失笑を返された。
「イルカも可哀そうになぁ」
「どこがだよ」
感に障る言い方にすぐに言い返したら、堪えきれない笑いが後頭部を押した。
嫌な笑いだ。
今では暗部も泣いて黙る自分を子供を見るような態度で。
だから殺気を含んだ視線を送ったのに、熊のような同僚はその視線をものともせずににやにやとした表情を改めようとはしなかった。
「さあな」
何かをわかったような優越感たっぷりの返答に言いようのない感情を覚えてそこから飛び出した。
恐らく自分が飛び出した後、同僚は大笑いをしているに違いない。
だから聞こえもしないのにどこからともなく笑い声が鼓膜を打ったのだ。




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