山茶花の別小説
とあるカイーナのいちにち その5

 異次元の裂け目から現れた妖物はラダマンティスによって倒されたものの、ぱっくりと口を開けた異次元への裂け目はまだ残っていて、じわじわと形を変えながら次第に大きくなっているようだ。

 困った事に冥界には異次元を操る能力を持つものが見当たらず、ハーデス以下成すすべが無かった。このままでは冥界そのものが異次元へと飲み込まれてしまうと危ぶまれたときに、ラダマンティスはおずおずと聖域のアテナに協力を要請してはどうかと進言した。
 さいわい地上の平和をつかさどる女神アテナと、冥王の姉であり冥界の実効支配者ともいえるパンドラとは知己の間柄であった。
 女神アテナは快く年上の友人からの要請に応え、異次元を自在に操る黄金聖闘士、双子座のサガを冥界に派遣してくれた。
 かくして異次元の裂け目は封じられ、次元獣の邪気にあてられたシルフィールドは再び意識を取り戻すことができた。

「でも、優しそうな人だね。弟とえらい違いだ」
 地上に帰る黄金聖闘士の労をねぎらう為に開かれたささやかな祝賀会で、シルフィールドは傍らのクイーンに話しかけた。
「ホントだな。あいつはあの兄さんの爪の垢でも煎じて飲めばいいんだ」
「だけど、バレンタイン先輩に言わせると紅茶には煩い人だそうだよ」
 そこにミューまでが加わって、珍しい客人について冥界の三雀たちの噂話の花が咲く。彼らにとってはわざわざ聖域から呼び寄せた聖闘士のためというより、ただ酒を喰らういい機会以上のものはないのだろう。
 ひとり実際に危ない処を救われたシルフィールドは、彼らの敬愛する上司と語らっている美丈夫に目をやった。 

「ふふ。カノンでなくて残念だったな」

 優しそうに微笑む双子座の黄金聖闘士の瞳が一欠けらも笑っていないことは、傍らに立つ接待役をおおせつかったラダマンティスにだけが気づいていた。
「いや、わざわざお越しいただいて恐縮至極…」
 背中につめたいものが流れるのを感じながら当たり障りのない挨拶を口にする。

 確かにハーデス様に進言した時には下心がなかったとは言わぬ。だが、こんなに針のむしろ状態も想像してはいなかった。
 いまラダマンティスの心のうちを占めるのは、今日一日がつつがなく終わり、アテナの聖闘士には厚くお礼を述べて聖域へお帰りいただくことだけだった。

 愛しい恋人とほんのわずかに色の違うだけの同じ髪、同じ目、何よりほとんど同じ顔を持つ相手と話しながらラダマンティスは孤独を噛み締めていた。

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