山茶花の夢小説
にゃんこものがたり番外編 18

『かのん…』

 妙に喉に絡むような声でさがはかのんの名前を呼んだ。低いけど良く通る普段の声とは似ても似つかない声だった。そして瞳も普段の優しい瞳ではなくらんらんと輝く猛獣のような強い瞳だった。
 足が凍りついたように言う事を聞かない。耳を伏せて、ひび割れた声で精一杯背中の毛を逆立てて威嚇してみてもさがはどこ吹く風で近づいてくる。
  
『…こわい…』

 かのんはふいに恐怖を覚え、思わず背を向けて走り出そうとした。

 次の瞬間、さがの体がその大きさに似つかわしくなくひらりと飛び上がる。あちこちにはねまくった長い体毛の下にしなやかで強靭な筋肉を隠し持った牡猫は、やっと仔猫の域を脱したばかりのかのんには悪魔のように強大に見えた。

『いやぁっ来ないでぇぇぇ』

 必死の抵抗も虚しく強引に押さえ込まれ、おののく首筋に鋭い牙が迫る。

 かぷっ…

 さがの牙がかのんの首の後ろに突き立てられた途端に、まるで魔法にかかったようにかのんの身体は硬直し尻を高々と突き出したまま固まってしまった。
 そして牙が刺さっている首筋からとろけるようなあまやかな痛みが広がる。かのんの身体はクリームのようにとろとろにとろけて、足の間が急激に熱を帯びてくる。

『はぁぁぁん…なにこれ…かのんのからだ…どうなっちゃってるの…?』

 ふわふわと夢心地になって、首筋に立てられた牙が抜かれるのがとてもたまらなくて切ない声が漏れてしまう。

『あぁぁん…もっと…抜かないで…抜いたらダメ…抜いたら…いやぁ』

 首の傷痕より、足の間の方が熱く疼く。まるで心臓が足の間に移動したみたいにどくどくと鼓動のようなリズムで熱く脈を刻む。
 これまで生きてきた中で思って見たこともない初めての感覚に、熱い吐息を漏らし目をギュッとつむって身悶えする。

『…かのんのからだ…ヘン…。へんなところが熱くなって…へんなの…』

 くふぅ…と切ない溜息とともに漏らされた言葉は、背中への甘いキスによって中断された。

『…かのん。私の子供を産んでくれるね』

 低い声でさがが言った。




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あきゅろす。
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