山茶花の夢小説
にゃんこものがたり番外編 16

 まもなく大き目のキャリーケースに入れられた****がかのんのいるリビングに運び込まれる。

 仔猫の頃からさまざまなタイトルを総なめにした血統書つきの猫は知らぬ人間の前でも堂々として悠然とキャリーケースの中から姿を現した。

「むぅ…メインクーンか?」
 
 悠然とした態度でふさふさとした尻尾を揺らす猫にさすがの教皇も言葉をなくしたようだ。
「ノルウェイジャンフォレストキャットの****。もともと単色の個体は少ない上にこんなシルバーがかったホワイトはめったに出ない。この青い目の見事さを見てくれ」
 普段は無口だが、こと猫に関してだけは関を切ったように饒舌になるカプリコーンの聖闘士をさえぎって教皇は口を開いた。

「青い目ならかのんの目のほうがいい。こんな巨大な猫とかのんを番わせるだなどと馬鹿は休み休み言え」
『さがぁ〜さがぁ〜』
 教皇の大きな手の中で暴れまわる猫はついこないだまで仔猫だった、まだ幼さの残る雌猫。せいぜい2〜3キロしかないだろう雌の相手としてどうみても10キロ近くはありそうな大きな雄猫を、というのはいささかむごいかもしれぬ。
 だけど恋はサイズでするものではない。恋しい相手を目にして、切ない枯れた声で名前を呼び続けるかのんにシュラは眉間を曇らせた。

「****は7キロちょうどだ。長毛種だから大きく見えるが実際は身軽で運動神経抜群なのだ。それにこの種類の雌は成猫でも3〜4キロほどだから、かのんちゃんを恋のお相手に選んだとしても不思議は無い」
 教皇はじろりとシュラを見やってから、件の猫に視線を戻す。
「なるほど、ご大層な猫であることは良くわかった。だが、男として役に立つのか?血統書付きの犬猫には性的に不完全なものも少なくないと聞くぞ。ちゃんとかのんを満足させられるのか?」
「…別に繁殖させたいわけでも、仔猫が欲しいわけでもないのだから仲良く出来ればいいと思うが」
 かのんが可愛いばかりに何とかしてアラを見つけようと****を睨みつけている男の手の中で逃れようともがくかのんが不憫だ。
「それに、****のほうもかのんちゃんが来てくれて嬉しいようだ」
 無口な猫が先ほどから犬のように尻尾をパタパタさせているのを指差して取り持つようにシュラは言う。確かに尻尾を動かしてはいるがあまりに優雅な動きなので歓迎の意を表しているとは気づかなかった。

『だしてよぉ〜。離してぇ…サガの事は大好きだけどさがのこともすきなの!』
 ひいひいと枯れた声でなく愛猫に哀れを催したのか、仮面に隠された教皇の険しい顔つきが和らいだようだ。
『かのん…逢いたかったよ』
 ****が低い声で一声鳴くと、教皇の腕の中に囚われたかのんがよりいっそうじたばたともがく。

「ふん…。まだまだ仔猫だと思っていたのだが…いつのまにか恋する年頃か…」
 教皇は誰にとも無くそう呟くと、その手に捕らえたかのんの戒めを解いた。
「私にもあいつにも普通の恋など訪れた事は無かったな。いつのまにか互いがこの世で一番大事なものになってしまっていたのに一方的に奪われてしまった…。お前くらいは普通の恋に溺れるのも良かろう。…行くがいいかのん、お前の恋しい男の元へ」
 仔猫が生まれてもまとめて面倒を見てやろうと、教皇は恐ろしい外見にも無く酷く優しい笑みを浮かべた。それは仮面にさえぎられて表に出ることは無かったが、今はもう居ないだれかに贈る手向けに他ならなかった。

 かのんは教皇の手の中から飛び出すと、一度背の高いその姿を仰ぎ見たあとで一目散に恋しいさがのもとへと走る。

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