山茶花の夢小説
にゃんこものがたり番外編 14

宝瓶宮を過ぎてからはずたずたに切り裂かれた石段をぴょんぴょん跳び跳ねて進む。

『よぃしょっと!よっ!早く直せばいいのになぁ』
 自分の尻尾の長さの何倍もの幅を軽々と飛び越えて、磨羯宮へと走る。
 どういうわけかは知らないけれど、体の内側からじりじりとあぶられるような熱さと頭の中がぱひぱひとはじけるような感覚はさがにあったら治るものだと判っていた。
『さがぁ…さがにあいたいよぅ』

 鞠のように弾んで宝瓶宮から磨羯宮までの長い石段を下り終えると、後は磨羯宮の回廊を突き抜けてシュラの住まいまで一直線だ。
『待ってて!いまかのんがいくよぅ』

「つかまえた」

 ひょいとかのんはくびねっこを摘まれて持ち上げられる。急に目線が変わったのに気づいて見上げれば、そこには黒髪の仮面の男の顔があった。
「どこにいこうというのだ、かのんよ」
 面白そうに赫い瞳をきらめかせて、かのんを見下ろす美丈夫に他意はないのだろうが、かのんはさがに逢いにいくのを反対されたような気がして哀しくなった。
「私の元を離れようというのは許さぬ」
 満足げにかのんの小さな体を捏ね繰り回している教皇にやっと追いついたシュラが声をかけた。

「さかりが来ているのではないか?尻尾の付け根が固くなっているだろう。声も低くなっているし、たぶん間違いないと思う」
 いいにくそうに目を逸らしたまま喋るストイックな山羊座の黄金聖闘士にちらりと一瞥をくれて、教皇はまたしてもかのんを大きな掌の中でくるくると撫で回す。
「確かに尻尾がかたくなってつっぱっておるな。まだ一歳にもなる前に盛りなどつけおって早熟な奴め」
 くくくっと可笑しそうに笑いながら黒い髪の教皇はかのんのちいさな頭を撫でて、顎の下をこしょこしょとくすぐる。普段のかのんには教皇の大きな手でそんな風に撫でられるのがとってもとっても大好きなことだったのだけど、いまのかのんはさがに逢いたくていてもたってもいられなかった。

『はなしてよぅ…さがにあいたいよぅ』

 枯れた声でひいひいと啼く愛猫に目を細めて教皇は嗤う。

「お前の恋しい相手は女に興味がないと言うぞ。血統書付きの猫にはたまにあるという。抱いてもくれん相手を追いかけてもつまらんだろう。私がお前に相応しい相手を探してやってもよいぞ」
 くくくと含み笑いと共に言い放たれた言葉に、かのんは愕然となる。

『イヤだよ!かのんに相応しい相手ってなに?相応しくなくても良いからさががいいの!』

 かのんは教皇のの掌から抜け出そうとしてもがくが、今までの相手とは違いかのんが爪を立てた程度ではびくともしなかった。
「ふむ、えらく執心とみえる。…シュラよ、お前の住まいに私を招待してもらおうか。このかのんが其れほどまで気に入っている相手とやらに興味がある」
「はっ…その、取り散らかしておりますが…」

 慌てて居住まいを正し、自宮の居住区に向かって歩き出す青年を先にたたせて教皇はずいと足を踏み出した。
 仮面をつけたその顔に浮かんでいる表情が何なのか誰も知らない。

『さがぁ…』

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