山茶花の夢小説
にゃんこものがたり番外編 13
毒薔薇の茂みを掻き分けてホンの小さな無毒な薔薇に茂みの一角を転がるように駆け抜けて、かのんはさがのもとへ走る。
「初恋というものかな。微笑ましいものだ」
アフロディーテは薫り高い薔薇の花弁を口に咥えてふっとため息をつくように笑うと、静かに独りごちた。
かのんは氷に包まれた宝瓶宮を滑るように駆け抜けて、目指す磨羯宮はもうすぐだ。
「あれ?何でこんな所に猫が…」
唐突にがしっと両脇を掴まれてすくい上げられてかのんは焦った。
『放してよぉ!さがにあいたいの!からだがあつくてたまんないの!とっとと放してよぉ』
主が不在の宝瓶宮で枯れた声でにゃごにゃごと暴れる猫を抱き上げて、不思議そうな声を上げた少年は黄金の巻き毛の蠍座の黄金聖闘士だった。遊び相手である宝瓶宮の主が不在だと判っていても、いつ何時極寒の地から戻ってくるかも知れぬ相手をいの一番に見つける為に日に一度は無人の宮を訪れていた。
いい玩具が見つかったとばかりにかのんの体をひっくり返したりでんぐり返してみたりして遊んでいたが、どうやら気に入られてしまったようだった。
「へぇえ…お前よく見ると可愛い顔してるじゃん。俺の猫になれよ、かわいがってやるぞ」
枯れた声はいただけないけどなと笑いながら、ミロは小脇に抱えた蠍座の頭部パーツの中にかのんをポイッと入れようとした。その隙を逃さず、かのんは蠍の尻尾を蹴って外に飛び出すと脇目も降らずに走り続ける。
「あっ!くそっ!」
折角見つけた可愛い獲物を、ミロは追いかける事はしなかった。うるさそうに髪をかきあげ、ちらと未練がましい視線を投げたくらいであまりにも必死に逃げようとするかのんに気おされた風にも見える。
「まっ、あんまり気に入ってなかったし。あんな嗄れ声の猫なんていらね〜」
猫はやっぱり可愛い声に限るぜと、高笑いしながら負け惜しみを言う声が無人の宝瓶宮に響いた。
かのんの目指す磨羯宮はもうすぐだ。
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