山茶花の夢小説
にゃんこものがたり番外編 12

「お前を通してやるなと言われている」
 軽やかな萌黄色の髪の美少年は自分を見上げてにゃあにゃあ啼く教皇の飼い猫の処遇に困っていた。
 あの恐ろしい男の方の命令ならなら聞かなかったことにして無視する事も出来たろう、しかしアフロディーテに声を掛けて来たのは本来の彼自身、アフロディーテがひた隠しに愛している穏やかで優しい彼の方だったから頼まれごとは守ってやりたい。
 だが同時に想われぬ相手を恋慕う身としては、他愛のない猫の恋とはいえできるものなら成就させてやりたいとも思う。ましてやずっと啼き続けていたのであろう、ひいひいと枯れた声で恋しい相手の元へ行きたいと希う恋猫に冷たい態度はとりたくなかった。
 教皇が可愛がっている猫…恐ろしい黒髪のあの男も、穏やかでいつも悲しそうに微笑むあの人もこの猫のことをいとおしげに呼ぶ。かのんと…。
 
 正直妬ましいという醜い感情が無いとは云わぬ。

 もういつのことか忘れた遠い昔…強引に引き据えられ無理やりに体をつなげられたときから、あの男がアフロディーテをそんなに親しげに呼んだことは無かった。いつも己の欲望を吐き出すと用無しとばかりに放り出された。己が半身の悪行を知らぬあの人に知られたくないばかりに、無残に穢された体を引きずって自分の守護する双魚宮まで帰り着くと自室に閉じこもって、そこでようやく苦い涙に浸ることが出来た。

 それでも、あの男の腕はあの人の腕でもあるのだ。あの男の厚い胸はあの人の胸でもあり、アフロディーテのからだを引き裂く猛々しいものは、愛しいあのひとの…。
 アフロディーテに拒めるはずも無かった。最近ではどこででも、求められるままに自分から足を開き男を悦ばせることさえした。もっとも皮肉な苦笑に終わるのが落ちだったが。

 孕まぬ肉体が恨めしくもあるが、同時に救いでもあった。

 どんなに男の粘つく汚液を体奥に受けようとも孕む事は無い。心はともかく体だけはきれいに洗えば神聖なる聖闘士の名を辱めることなくやり過ごせた。

 誰よりも気高く美しいあのひとにだけは知られたくなかった。あの男とあの人が同じ体に棲む以上矛盾しているとは思わない夜は無かったけれども。

「…いいさ、通るがいい。お咎めは私が受けよう」
 アフロディーテはそう云うと、毒薔薇を避けてかのんに道を開けてくれた。
「お前だけでも恋を成就させるといいさ」
 
 かのんはさがのいる磨羯宮に向かって走り出す。
 

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あきゅろす。
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