山茶花の夢小説
にゃんこものがたり番外編 11
長い夜が明けても、かのんの狂乱振りは変わることなくぐるぐるとその場を駆け回っている。
「かのん、かのん何か食べないと体に毒だよ。お前の好きな缶詰を開けてあげよう。ふりかけもかけてあげる。何でもいいから一口でも食べておくれ」
あれも駄目、これも駄目とたくさんの猫カンを前にして呆然とぐるぐるまわる愛猫を見詰める教皇がいた。
前教皇をその手にかけ、親友を謀殺し、教皇の名の下に聖域をほしいままにしている男とは思えないほど頼りなげな姿だった。誰よりも愛していたのに自らの手で死なせてしまった相手の名前をつけた猫にすら見捨てられた気がしているのか。
『あぁん…からだが…あっついよ…ぉ…あたまのなかがぱひぱひして…なにも・・・かんがえられない…よぉ』
切なげに中空を見詰めるかのんの瞳は一体何を見詰めているのか。
救いようのない堂々巡りを突破したのは辺りの空気を切り裂くような硬い声だった。
「失礼する。教皇の命によりカプリコーンのシュラ参上仕りました」
清々しい声で名乗りをあげ臣下の礼をとろうとするまだ少年のしっぽを引きずったような青年のわきを擦り抜けてかのんは走り出した。
「待て…待ってくれかのん!」
悲痛な声を上げる教皇の姿を振り返りもせずにかのんは長い回廊を走っていく。
『さがにあいたい…さがにあいたいよぅ』
ちいさな頭の中にあるのはただそれだけだった。さがに会えば熱くたぎる体の不調もぱひぱひする頭も何とかなると本能的にわかっていた。むしろ体の奥から囁く声がかのんをさがの元へと駆り立てていた。
『さがぁ』
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