山茶花の夢小説
にゃんこものがたり番外編 8

 やっとの思いで教皇宮までたどり着いたシュラには最後の難関が迫っている。いや、むしろそここそがゴールなのだが。

 教皇宮に一歩足を踏み入れた辺りからバスケットはまた変形し始め、教皇の間を目指す頃には殆ど元の形がわからなくなっていた。

「教皇にお目通りを願いたい」
 教皇の間の入り口を守る見張り番にそう告げると、取り次いでくれるのを待つ間、もう一人の見張り番がぼこぼこと変形するバスケットを目を丸くしてみている視線が辛かった。何か言いたそうな顔をしてシュラを見ているが、もともとが真面目なシュラは心でわびながらあえて厳しい顔を作って無視する。

「教皇さまがお会いになるそうです」
 見張りの兵が告げてから、さらに控えの間で名乗りを上げる。
「カプリコーンのシュラ、教皇にお目通りを願いたい」
「…入れ」
 言葉すくなに返ってくる返事は、どう考えてもあの恐ろしい男のようで。シュラの眉が顰められる。逆にバスケットの方はその声を聞いた途端とうとう留め金を押し上げて飛び出してしまった。

『ただいまぁ!サガぁサガぁ!』

 鞠のように撥ねながら仔猫は黒髪の教皇のもとへ走っていく。すると、驚いた事に黒髪の恐ろしい男がかのんに向かって片手を差し出した。

 にゃあん!と可愛く鳴いてかのんは差し出された手に飛びつくと、すばやい動きで長い腕をよじ登り教皇の肩に落ち着いて嬉しそうに背に流れる長い髪に潜り込んで丸まった。

『サガぁサガぁ、今日ね、サガにそっくりな男の猫にあったよぉ』
 にゃおにゃおと何か話しかけてでもいるような仔猫に一瞥をくれると教皇はシュラに向き直った。
「子守ご苦労だったな」

 くくくと苦笑交じりに礼を言われて、シュラはつい気まずくなって視線を逸らす。逸らした先のうずたかく積まれた書類の山の傍らに、手付かずのまま冷めてしまった2客のローズティを見つけてさらに気まずくなって視線を元に戻す。
 仔猫は教皇の肩の上に安住の地を見つけたのか、丸くなって眠っているようだ。

 さっきまで、****と団子になって寝ていたくせにさすがに寝子と言うだけあるなと、シュラは思った。

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あきゅろす。
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