山茶花の夢小説
にゃんこものがたり番外編 6
「やれやれ、無粋な役割だがやらずばなるまい」
 シュラはため息をつきながら、ぬくぬくと団子になって眠っている二匹の猫に近付くとひょいとちいさなかのんを摘み上げた。

「にゃ?」
「み”!」
 
 たちまち二匹からあがる抗議の声に耳を塞ぎながら、しぶしぶ教皇宮へと足を運ぶ。
 シベリアで弟子を育てているという、主が不在の無人の宝瓶宮を抜けてさらに上を目指す。
「…おいおい、お前のおうちに帰るんだぞ。そんなに暴れてくれるな」
 ぼこぼこと詰め篭れたバスケットの形が変わりそうなくらい暴れてくれる仔猫を連れてとぼとぼと双魚宮へと通りかかると、宮の主人はゆったりとした部屋着を羽織って薔薇の花を腕一杯に抱えていた。
 花の色が移ったかのような上気した頬が、同じ名の女神もかくやとばかりに彼を美しく見せている。

「やあ、シュラ。変わったものをつれているな」
 けだるげな笑みを浮かべる麗人に、ぼこぼこと形の変わるバスケットを見せて苦笑を浮かべながら訊ねる。
「なんでこいつがいっぴきでオレの宮にまで来れたのかな?内通者がいるとしか思えないんだが」
 優雅に白い華奢な首筋に残る薔薇の花びらよりも濃い影に気づかないフリをして。

「さあね。…さしずめ心に翼でも生えたのだろう」
 とぼけているのだか本気なのかわからないセリフに眉を顰めたシュラに、にっこりと笑いかけてアフロディーテは歌うように言った。
「恋は盲目というだろう?それは女の子だし、お前の宮にいるのは大人の男の猫だ。惹かれあったとしても無理は無い」
「では、お前は磨羯宮に預かりものの雄の成猫がいるのを知っていてわざとこいつを通したというのか。仔猫とはいえ男と女だ。何かあってからではどうするつもりだ」
 執拗に喰いついて来るシュラにしぶしぶとアフロディーテは認めた。
「…実を言うと、磨羯宮に雄猫がいるのを思い出したのは教皇の猫を通してやった後だ。だが、男と女の関係になったのかどうかは知らぬが、その暴れっぷりではさぞや楽しかったのではないか?まだまだ遊び足り無そうだぞ」
 言われてシュラは、ため息と共に手に提げたバスケットであったものの方を見た。ぼこぼこと元気に新型バスケットを形成中のかのんはバスケット中で声もかれよと叫んでいる。

『出してよぉ。さがぁ〜さがぁ〜』

 薄く微笑む麗人の周りを薔薇の香りの風が包む。そのかぐわしい香りの中に嗅ぎ慣れた匂いの残り香を認めてかのんは不思議そうに目を細める。

『何でこの人からサガの匂いがするんだろう?』

 薔薇の香りのする風は二人と一匹をふわりと包んで消えた。


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