山茶花の夢小説
にゃんこものがたり番外編 3

 ぴょんこぴょんこ大きな裂け目を飛び越えながら、かのんは大きな石段を降りてゆく。長い尻尾でバランスをとりながら切り刻まれた石段を下っていくうちになんだか楽しくなってしまって、自然と喉がごろごろ鳴る。
 教皇宮から双魚宮まではアフロディテの毒薔薇のトンネルを通ってきたからともかく、双魚宮から宝瓶宮を通って磨羯宮までの間は上空から無防備に思われたが、12宮は天然の要塞であり野生の獣や恐ろしい猛禽などの攻撃からも免れていた。(それ以外にも、候補生たちの新技の実験台や腹減らしの育ち盛りの餓えを満たすためにおやつ代わりにされて近付かないせいもあった)

 そういうわけで、磨羯宮に着いたときにはかのんは結構ご機嫌だった。
『しゅらぁ〜、あそびにきたよ〜。きょうはねぇかのんひとりできたんだょぉ〜』
 ごろごろと喉を鳴らしながら磨羯宮の中をぐるぐる走り回ってみても、住人の応えは無かった。
『留守なのかなぁ?』
 可愛らしく首をかしげて思案していると先日当のシュラが言っていたことが思い出される。

「ここにかのんちゃん用に出入り口を作ったからね。もしも、オレが留守のときに遊びに来る事があったらここから入ってくればいい」
 帰りはちゃんと送ってあげるよと磨羯宮の主人が指し示してくれたのは、重い木の扉に上手くカモフラージュされたかのん専用の猫入り口だった。
 シュラ自身の小宇宙で磨羯宮全体が封印されたとしてもかのんの存在を見分けてスルーしてくれる優れものだ。
 宮の中心を通る回廊と繋がる主の居住空間の間に、石壁と石壁が互い違いに組み合わさって入り口はある。外見では其れと見抜けないように細工された扉にさらにかのん用の猫入り口を作ってしまったシュラの器用さが偲ばれようものだ。

『確かここらへんだったよね』
 大きな一枚扉の片隅を小さなつめでかりかりひっかいていると、カタンとかすかな音がしてかのん専用の扉が開いた。
『お邪魔しまぁす』
 お行儀よく挨拶をしてぽっかりとあいたちいさな穴の中へ入っていった。

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あきゅろす。
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