山茶花の夢小説

にゃんこものがたり番外・29500HITでグチ子さんのリクエスト

*にょた注意

 1

「にゃあ〜っ」「にい〜」「にゃあぁぁん」
 
 しっかりと閉じられた大きな木の扉の前で、小さな仔猫がおおきな声で鳴いている。すなわち…。

『開けてよぉ〜っ』『ねぇってばぁ』『おんもにいきたいよぉ』
 固い樫の木で出来た扉を鋭いけれど小さな爪でかりかりとひっかいていたら、とうとう飼い主である教皇が音をあげた。

「かのん、いい加減におし。私は仕事をしているんだよ」
 朝からずっと執務机に張り付いたままで、書類の山と戦ってきた教皇には仔猫の相手もまま成らなかった。書けども書けども書類の山は崩れこそすれ、小さくなる気配も見せない。
 そんな中に仔猫の遊んで遊んでコールはかまってやれない身を苛んだ。

『ねぇねぇ、あそんでよぉ☆』

 仕方なしに教皇は執務室の大きな樫の木のドアを開けてやる事にした。どうせ、この教皇宮からは出られはすまい。もしも出たところで、まさか仔猫が逆12宮突破という事はありえないだろう。誰かに見つかって連れ戻されるのが落ちとたかをくくっていた。
 
「あまり遠くへ行くんじゃないよ」
「にゃぁぁん(はぁい)」
 お返事は可愛らしさ当社比1.5倍。何度も振り返り尻尾まで使ってご愛嬌。だってにゃんこなんだもぉん。

 したしたと誰もいない石造りの通路を歩く。仔猫の足には長い道のりだったけど、いつも教皇の法衣の懐に入って通ってる道だから迷ったりはしない。
 フンフンと風の匂いをかぎ、ゆらゆらと尻尾を揺らしながら歩いてゆくと赤い薔薇に覆われた階段に出た。今日は誰にも出会わないと思ったら、双魚宮の薔薇のお手入れの日だったらしい。

「其処で何をしている!」
 鋭い声にびくぅと毛を逆立てていると、この双魚宮の主が姿を現す。
「なんだ、お前か。そんなところにいたら死ぬぞ。こちらのすみっこにお前用の通路を作ってやったから、ここを通れ」
 わさわさとした紅い薔薇のつるを避けてくれた石段のすみっこにはちょうど仔猫が通れるくらいの大きさの隙間があり、そこには花粉も薔薇の香りも届かないようにしてくれていた。
「にゃぁおん(ありがとぉ優しいね)」
「礼はいい。お前に何かあると教皇が悲しむ。あまり遠くへ行くんじゃないぞ」
 大きなつばのある麦藁帽子に野良着でも美しい双魚宮の主に尻尾で挨拶して薔薇の通路を下りていく

「さて、あいつがいないとなると教皇はお独りだな。邪魔者も消えた事だから、茶でも持っていくか」
 白い方だといいなと麗しの農業少年がひとりごちているのも知らず。
 

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あきゅろす。
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