山茶花の夢小説
にゃんこものがたり   その9
 サガとかのんは暗がりの中を進み双児宮に繋がるドアに辿り着いた。

「ここからは、明かりがつけられないからね。真っ暗だから私から離れちゃいけないよ」
「み(くらいね)」
 手燭の明かりを消して、手探りで進む。10年近くも無人だった宮内はほこりっぽくて、かび臭いにおいがした。
「やれやれ、こんなことなら一晩くらい徹夜した方がよかったかな」
『なぁん(さがとならどこでもいいよ)』

 闇に眼が慣れるのを待ち、なんとか以前寝室として使っていた部屋へと辿り着く。やはり此処も埃っぽかったが、それよりも懐かしさの方が勝っていた。
『にゃ〜(ここにさがはすんでいたの?)』
「ここは私が弟と住んでいたところだよ」
 そっとベッドカバーを外せば、どうやら中身は外見に対してさほど汚れてないようだ。これなら一晩くらいなら我慢できるだろう。

「おいでかのん。今晩は此処で寝るよ」
『みぃ(あい)』
 仔猫を抱き寄せて眼を閉じれば、やはり小さかった頃の事が思い出される。このベッドに二人並んで眠った事や、睦みあった事などが脳裏に浮かぶ。
 
 サガが他人の気配がしただけで眠れなくなったのは、弟がいなくなってからだった。

 夜中にふと眼を覚まし自分以外の者の寝息に弟が帰ってきたと思って歓んで覗きこめば、そこにいるのは当然のごとく弟とは似ても似つかない別人で…喜んだ分騙されたという憤怒の方が強くて怒りのあまり閨の相手を無残にも虐殺してしまった。
 それを何度か繰り返して屍体の山を築くかと思われた頃には、黒髪のサガはありあまる性欲の捌け口に誰かをベッドに連れ込んでも終わるとすぐに追い出すようになった。

 誰かがいると眠れないのではなくて、サガは誰かがいることに耐えられないのだった。
 
 誰もいないと、いないことに安心する。そこで眠っているはずの人物は、今では冷たい海の底で眠っているのだとサガの心が叫んでいる。もう独りのサガも無理強いはしないでいてくれて、ずっと独り寝を許してくれていた。かのんが来るまでは…。

 今ではたいがいかのんと一緒に眠っている。

「明かりがないと、こんなにまっくらなのだな」
 この闇の中で、弟はどんな思いで私を待っていたのだろうと、サガは悲しく思った。こんなことになるのなら、もっと優しくしてあげていればよかった。

 正論を吐く自分と、奔放なもう片割れのあいだで弟は静かに壊れていった。
 そうでなければ、『アテナを殺す』などという恐ろしい事を考えるはずが無かった。

 『アテナを殺して、地上を俺たちで征服しよう(そうすれば、もう双子である事を隠さずに済む。もう暗い地下室に閉じ込められなくて済むはず)』

 そんなところまで追い詰められていたのに、たった一人の肉親である自分はわかってやれなかった。

 ただ言葉通りの意味だけを受け取って、この世でたったひとりの弟を反逆者としてスニオン岬の水牢に閉じ込めた。そのまま永遠にこの手から失われてしまうとも知らず。

『にゃ〜(またこわいかおしてる)』
「明日は早いから、もうおやすみ。また、あそこを通ってこっそりと帰らなければならないんだよ」
『みゃあ(もうあそこいやだなぁ。)』
「おやすみ」

 サガはかのんのおでこにちゅ!とおやすみのキスしてくれた。


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