山茶花の夢小説
任命式        その3
「ところでサガよ、カノンはどうしたのだ?」
もしゃもしゃ頭に麻呂眉の人が憂い顔の美人に尋ねた。そうか、この人はサガって言うのか。
 でも、あの髪もふもふしてみたいわぁ。さぞかし柔らかそう。羊みたいにくるんくるんしてるだもんね。

「アレには今日の事は知らせておりません。ですから、いつも通り海底神殿へ行きました。夕方には戻ることでしょう。」
「ふむ、困った奴よのう。参加させればぶんむくれ、欠席させれば出奔する。ほんに手を焼かせる奴だの、お前の弟は。」
「…愚弟がご迷惑をかけて申し訳ありません」
 
 いやみったらしくため息を吐く麻呂眉にサガさんは頭を下げて謝罪した。
 でも、それって弟って人が悪いわけでサガさんなにも悪くないんじゃないのかな?

「ですがシオン、あれはちょっとどうかと私も思いますよ。参加させたとは言え、革鎧を着せて雑兵や練習生の列に並ばせるというのはやりすぎではないのかしら。」
 シオンと呼ばれたのは麻呂眉の人。沙織お嬢さんの相手を貫くような眼差しの前で平然としてられるのはさすが偉そうなだけあるわ。子供の頃から沙織お嬢さんは相手の嘘を見抜くのがとってもうまかったの。
 あの大きな瞳でじっと見詰められると誰だって何でもかんでも白状したくなっちゃうのに。

「いくら[もうひとりの双子座]とはいえ、公の場では聖衣を持たないカノンはあくまでも聖闘士候補生にしか過ぎないのでな。多くの者を束ねる教皇としての立場から言うと例外は認められんのじゃ」
「あの時の祭典の録画を見たジュリアンは泣いておりましたよ。カノンが不憫だと言って。『今度このような正規の催しのある時には、ぜひとも私を来賓として招いて欲しい。そうすればカノンは私の従者としてシードラゴンの鱗衣を着せてあげられるから。見る者が見れば、カノンは暗い夜の海に漂う黄金の薔薇に見える。同じ黄金の薔薇の群れから手折られ、投げ捨てられた一輪の薔薇のようで哀れすぎる』だそうよ。確かに小宇宙の見える者からすれば、カノンは候補生でありながら黄金の小宇宙を持っていますから、周りの雑兵や、候補生達のあるかなしかの小宇宙の中では『波間に漂う黄金の薔薇』に見えても仕方の無いことでしょう」
 
シオン教皇が麻呂眉を寄せた…みたい。普通の眉毛の人がやったら[柳眉を逆立てる]って感じになるんだと思う…タブン。
「海皇殿が何のたわごとを申されるやら。カノンはあくまでも聖域の聖闘士。海皇ごときが口を出すいわれはないわ。それとも、また誑かされてでもおるのか」
 
 口から火を吐く勢いで一刀の元に切り捨てるってこういうことを言うのね。取り付く島もないわ。

「お言葉ですが、特にあれが強請った訳ではないでしょう。海皇の一人合点かと思われますが」
「そうかな、意外と閨での睦言の折にでも強請ったやもしれぬ」
 
 サガさんの精一杯のフォローも、冷ややかに打ち消されちゃった。シオンさまって、そんなにサガさんの弟さんの事が嫌いなのかしら。

 サガさん、唇を咬んで俯いてしまったわ…。
 

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あきゅろす。
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