山茶花の夢小説
にゃんこものがたり   その8
 真っ暗な闇の中にサガの持った手燭の明かりが揺れる。固い岩盤を掘りぬいて造られただろう階段を、サガとかのんは歩いていった。時折岩陰に映る影がちらちらといろんな奇怪な姿を見せている。
 闇を見通せるかのんの眼にはただの岩のトンネルにしか過ぎなかったけど、サガの眼にはどう映ったものであろうか。
 
 闇を見詰める瞳が次第に厳しくなり、ぶつぶつと口の中で呟く独り言が増えてきたようだ。

「にゃぁぁん(さがぁ、そこにはだれもいないよ?ここにいるのはさがとかのんだけだよ。ちまみれのこどもなんかいやしないからおちついてよぅ)」

 かのんの声に急にわれに帰ったようにサガの体が揺れた。
「あぁかのん、吃驚するだろう。急に大きな声を出すから…。でも、ありがとう。もう少しで怖い夢につかまってしまう所だった」
「にゃ(こわいゆめ?)」
「うん、海で死んだ弟がぶよぶよの腐乱死体になって帰ってくる夢だよ。私に何度も『これで満足か』『これがお前の望んだことなのか』って訊いて来るんだ。皮膚なんかボロボロ剥がれているのに、眼だけが昔の碧い碧い瞳でね。雑巾のようになった長い髪の間から、私をじっと見詰めてる。そして手を伸ばして来るんだが、反対側の手には……・・・」

「にィ…(はなしたくなかったら、はなさなくていいよ)」
 ちいさな仔猫の頭を撫ぜながらサガは微笑んだ。
「かのんは優しいね。でももう終わりだよ。死んだ弟が握っていたのは…私がアテナを死に至らしめようとした黄金の短剣だったよ」

 あいつは私を許してはくれないだろうね。サガは悲しげに微笑むとかのんのちいさな体を抱き締めた。

 
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