山茶花の夢小説
にゃんこものがたり   その4
 山羊座のシュラは困っていた。

 ここは教皇の間に隣接する執務室で、現在教皇はマスクをつけたままで山積みの書類の山と対峙している。
 問題は、教皇の後ろ方面にあった。教皇はマスクからはみ出した長い髪を無造作に後ろに流しているのだが、床に着きそうなほど長いそれに何処から入り込んだのか一匹の仔猫がまとわり付いている。

 マスクを付けているので確信はないが、髪の色からして今日の教皇はあの恐ろしい男の方だ。

 教皇が一枚書類を取り上げてそれを吟味し、サインして別の山へ重ねる。ゆるぎない一連の動作に連れて、後ろに流した長い髪も揺れるのだが仔猫はそれを追いかけているらしい。
 
 見た所、まだ離乳が済んでないかどうかと言った所のほんの仔猫のようだ。何が面白いのか、髪の毛が揺れるたびに右に左に嬉しそうに駆け回っている。

 教皇が書類を一枚取る。髪の毛は左に揺れる。仔猫も左に走る。シュラの目線もそれを追って左へ。
 教皇がサインを終えた書類を別の山へ移す。髪の毛は右に揺れる。仔猫も右に走る。シュラの目線もそれを追って右へ
  
      左へ      
             右へ
      左へ
             右へ
      左へ

「…なにか、言いたいことがあるのかシュラよ」
 
 とうとう教皇がキレた。マスク越しに身を切るような冷たい視線が突き刺さる。

 シュラは悪戯を見つかった子供のように、頬を染めて俯いた。
 
「……その……ネコチャンニサワツテモイイダロウカ…」

「なんだと?……気色が悪いからその上目遣いはやめろ」

「ねこちゃんに触らせて貰ってもいいだろうか?」

「…ねこちゃん?」

「お前の後ろで髪の毛と遊んでいる蒼銀のかわいい仔だ」
「かのんのことか」
 無造作に仔猫の首の後ろを掴んでもちあげる。

「なぁう(さがぁ、あそんでよぉう)」
「おぉ、鳴き声もかわいいなぁ」
「にゃ?(このひとだぁれ?)」
「オレはシュラと言う。山羊座の黄金聖闘士だよ。きみのパパの友だちだ」

「猫に自己紹介をするな!そんなに触りたいなら心ゆくまで触るがいい。ただし、傷つけるなよ」
 かのんをポイとシュラに投げ渡す。
「勿論だとも!オレのエクスカリバーはか弱い者を傷つけるためにあるんじゃない…本来はな」
 急にテンションが下がってしまったシュラだったが、すぐに気を取り直して仔猫と遊び始めた。

「にぃ(かのんとあそんでくれるの!?)」
「あはは、くすぐったいなぁ。かのんはいいこだね」

 仔猫に目線を合わせるために床に腹ばいになってしまった黄金聖闘士を見下ろしながら教皇は溜息を零した。
 「シュラよ…いつもの研ぎ澄まされた刃の切っ先のような、ピリピリした緊張感に包まれたお前はいったい何処に行ってしまったんだ…」

 緊張感のまるでない黄金聖闘士を人目にさらすわけにも行かなかったので、教皇は入り口の扉に封印を施した。

「にゃあ〜ん(さがぁ〜かのんをかわいかわいしてよぉ〜。さがのがいいんだよぉ)」

 シュラの手を逃れて、足下にまとわり付いた仔猫を掬い上げて教皇はシュラに退室を促した。

「いつまで油を売っている。さっさと仕事に戻らぬか」

 名残惜しそうに山羊座の黄金聖闘士は、執務に戻っていったが、退室する際に教皇の肩の上の仔猫の前足に口付けしていった。

「お前は何人の男を手玉に取る気だ」
「にゃん(かのんはさががいてくれればいいよぉ)」
 仔猫は教皇の肩の上で、ちいさくあくびした。


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