山茶花の夢小説
にゃんこものがたり   その1
…おなかすいたよぉ

さむいよぉ、さびしいよぉ…

 遠退いていく意識のかけらに、傍を通り過ぎようとする足音が聞こえた気がした。

 この人を逃したら、きっとこのまま目が覚めなくなってしまうに違いない。

なんとかして、よびとめなくちゃ。
ここにいるよ、だれかきづいてよぉ。

無情にも足音の主はそのまま通り過ぎようとしていた。

たすけて…

「に…ゃぁ」

 サガは足元から何かの鳴き声のような小さな声が聞こえたような気がした。
 慌ててあたりを見回してもそれらしい生物は見当たらない。気のせいかと踵を返そうとした時、ゴミかと思っていた小さな塊がかすかに動くのを見た。

 そっと拾い上げれば、それはまだ眼も開いてないような小さな仔猫でぬくもりを求めてサガの掌に擦り寄ってきた。ガリガリに痩せこけて、もう鳴く力もないのか弱々しくもがくことしか出来なさそうだった。

「困ったな」
 サガは頭を抱えた。
 
 帰りならばまだしも、これから教皇としてロドリゴ村に慰問に行く予定だった。本来の教皇を殺して成り代わった偽教皇の身ながらも、贖罪のつもりでずっと続けてきた習慣だった。途中で引き返したりなんかした時は、きっと何事とかと思われるに違いない。

 いっそ、一旦この場に残して帰り道で連れ帰るのはどうだろう?イヤイヤ、この弱り具合いではこの道を再び戻ってくるまで命が絶たれぬ保証はない。野犬やその他の外敵にやられてしまわないとも限らない。

 大きな掌の上に小さな仔猫を乗せてつらつら考えてみると、いろいろ不吉な事が頭をよぎる。

「ひ…ぁ?」
 自分の事だとわかっているのか、仔猫が顔をあげてこちらを見た。
 まだ碌に眼も見えていないだろうに、不安げに見上げてくる瞳は……透き通った夏の海の色。

 その眼を見た途端サガの心は決まった。


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あきゅろす。
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