山茶花の夢小説

nekonekokoneko


今日は朝からサガがうろうろしてる。
さっきかのんにおはようのちゅーをしてくれて、あたたかいミルクをくれた時はあんなにせかせかしてなかったのにな。

あんまり忙しそうにしてるから、遊んで欲しいけどだめみたい。

 仔猫はちんまりとまるくなると、主のいない執務室の椅子の上でうたたねを始めた。長いしっぽの先が呼吸のたびにかすかに揺れる。
 その姿は、ふとそちらに目をやった主の目を愉しませた。

「かのん、かのん起きなさい」
 仔猫は優しく揺さぶられて目を覚ました。大きく伸びをして目を開けると、そこには優しいサガの笑顔。
「お誕生日おめでとうかのん」
 いちばんいい缶詰とやわらかく煮たささみが綺麗な皿に盛られて仔猫の前に供される。
「にゃぁん(お誕生日ってなぁに?)」
 目の前に差し出されたご馳走に飛びつきながらかのんはつぶらな瞳で主を見上げて訊いてみた。
「ごめんよ、お前を拾ったときから考えてもお前が一才になっているわけはないのに、私の茶番に付き合っておくれ」 
 サガはかのんの小さな頭をくりくり撫でながら哀しい顔で笑って教えてくれた。

 本当は今日はサガと双子の弟の誕生日なこと。でも、弟はもう死んじゃってていないのでもう何年もお誕生祝いはやっていないけど、ことしはかのんがいるからかのんにかこつけてお誕生日のお祝いをしたかったんだって。

 サガがときどきかのんのことを悲しそうな目で見てため息をついているのは知っていたけど、それって死んだ弟のことを思い出していたのかな?

 ばかだよね。かのんはいつまでもサガと一緒にいてあげるのに。もういない弟なんかよりずっとずっとサガを愛してるのに・・・。

「かのん、愛しているよ。ずっと私といておくれ」
 哀しそうな笑顔で、かのんを見ながらサガが呟いた。ほんとうは、それはかのんじゃなくてもういない弟に言いたかった言葉なのかな?

 食べ終わった皿から顔を挙げ、満足そうに体を舐めている仔猫をサガは優しいまなざしで眺めていたが、仔猫のあおいあおい目と目が会うとゆっくりと抱き上げ柔らかい毛並みを撫でた。
 
 かのんは暖かいサガの腕の中でどこか遠くを見詰めている横顔を眺めて、軽くしっぽをゆらした。

『カノン…。誕生日おめでとう』

 教皇宮の執務室…許されたもの以外の立ち入りが禁じられた禁域で、解き放たれる事を希う許されざる者の唇は声も無く…確かにそう動いていた。

                     終

 
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